6.ときめきと痛み
久しぶりにわくわくする。
まるで、遠足が待ち遠しい子供のように、なかなか眠れなかった。
仕事をしていても苦にならず、普段は面倒だと思うような仕事も進んでやれた。そのせいか、日頃口うるさい先輩も笑顔で見てくれていた。
(そうか、私が面倒くさそうに仕事をしているのが、やる気がなく見えて、それで余計にイライラさせちゃったのかもしれないな。もっと、楽しいって気持ちをを持たないといけないな)
ルミは不思議とそんな思いに至り、ほくそ笑んだ。
いつもなら、動物の糞尿の匂いに辟易するのに、ここ数日はまるで感じないのだ。それどころか、鼻歌まで出てしまう。
もちろん、疲れることに変わりはないのだが。
「楽しそうね」
先輩に声を掛けられ、笑顔で『はい』と応えることもできた。
全てが日曜日を待ちわびる気持ちからなのかもしれないが、それでも楽しいのだからそれでよいのだ。
(だって、有名な歌い手に踊り手、絵師さんにまで会えるなんて、どれほどラッキーだと思う? 以前の私なら、ありえなかったことよ)
当日の朝は、眠れない夜のせいで、目にクマができていないかと心配したほどだ。
ルミは飛び跳ねたいのを堪えながら、洋服を選んでいた。
どこで遊ぶことになるかは分からないが、それでも七月の気候を考えると、薄手の服でないと辛いだろう。
とはいえ、男性ばかりだから、あまりに女性的な服装では一緒にいる犬飯さんに男好きと思われかねない。
いろいろなことを考えあぐねているうちに、何を着たらいいのか分からなくなってしまった。
(うーん、考えてもしょうがないか。普通にGパンと……)
Gパンを手にしたときだった。
胸を指す痛みがルミを捕らえた。
(痛い!)
持っていた服を胸に当て、座り込む。
痛みが遠のくのをひたすら待つのだ。
(大丈夫。大丈夫だよ。こんなの、前にもあったんだから)
働くようになって最初の頃、疲れがたまっていたのか、急に胸が痛くなり座り込んでしまったことがあった。
ちょうど、帰宅したばかりだったので、その場で横になり襲ってくる痛みに恐怖を感じながらじっとしていた。
あの時も、痛みは五分と経たずに和らぎ、まるで何事もなかったように消えていった。
(なんだろう、疲れちゃったのかな……)
その後、何があるわけでもなく、そんなことがあったことすら忘れていた。
疲労が溜まれば、そんなこともあるのかも知れないと、自分に言い聞かせる程度だった。
(でも、出かける前になってよかった。これが、出かけてからだったら、どうにもならなかった)
痛みと闘いながら、そんなことを考えていた。
何か別のことを考えていないと、痛みに負けてしまいそうだったからだ。
その効果なのかどうか、痛みが和らぎだし、気がつけば何事もなかったかのように静かになっていた。
(ほら、やっぱりね。大丈夫)
ルミは立ち上がると、何事もなかったかのように、準備に取り掛かった。