5.無趣味という趣味(2)
タクは何かを察したらしく、
『メンバーはね、犬飯、揚げうどん、K、乱気流……今のところ、俺を入れて五人』
『え! 犬飯さんとか乱気流さんとか、有名な歌い手さんじゃないですか』
『有名? そうかな、やつら完璧趣味でやってるだけなんだけどね』
『Kさんは、踊り手さんで、揚げうどんさんは絵師さんですよね』
『よく知ってるね』
『そりゃぁ……』
中学生のころから、ネットにはお世話になってきているのだ。
つい最近まで、その手の動画は飽きるほど見てきた。
仕事に就いた今は、時間的制約ができてなかなか見ることができなくなっているが、それでも彼らが有名な歌い手や踊り手であることは忘れてはいない。
『でも、全員男性なんですね』
さすがに、男性ばかりが集まるところに一人で乗り込んでいく勇気はない。
ましてや、現実に付き合いもなければ面識もないのだ。
これで、恐ろしいことに巻き込まれたとしても、全ては自分が悪いことになる。
『全員男性? 犬飯は女性だよ』
タクがおかしそうに笑う。
本当におかしそうに笑うのだ。
『うそ、犬飯さんは男性ボーカリストじゃないですか』
『それ、本人に言ったら泣くよ。彼女は、男装が趣味の女性で、中身は完全に女性だよ。性格はさっぱりしてるけど、ちゃんと女性だよ。調べたことはないけどね、保険証を見せてもらったら、性別女性になってたからね』
『え、保険証って』
『よっぽど頭にきたらしいよ。俺たちがよってたかって、男のくせにって言ったのが気に入らなかったらしくてね、持っていた保険証を見せてきたんだよ。でも、そこには『犬飯』とは書いてないから、未だに本当の性別は不明だけどね。ここは信じるしかないでしょ』
本名を明かさずに付き合っているのか、それとも本名を知っていながら、ネットで使っている名前の方が浸透しているからなのか。
タクはルミにそう話して聞かせた。
『だから、そこのところは安心していいよ。犬飯もさっぱりした性格だけど、一応女性だから、ルミさんが来てくれたらきっと喜ぶよ』
『でも……私なんて、みなさんのように何かができるわけじゃないし、それどころか何もできないから』
『俺もできないよ。いいじゃない、できなくても。ヤツラは趣味が踊ることだったり、歌うことだったり、絵を描くことだったりする。それだけだよ。俺の趣味は人と話すことだ。一人でも多くの人との輪を広げていくこと。ルミさんの趣味はなに?』
『私の趣味?』
改めてそう聞かれると、一体何なのだろうか。
ルミは思案に暮れた。
実際、趣味といえるものがないのだ。
ずっと、パソコンの前にいた。動画を見て、歌を覚えた。
しかし、人に披露できるような歌でもないのだ。
『無……趣味……かな』
そういうと、画面いっぱいのタクが大きく笑った。
『あはは、そうか! そりゃぁ立派な趣味だね』
冗談なのか、バカにしているのか。
『バカになんかしてないよ。本当に立派だと思うよ。だって、無趣味ってことは、これから趣味ができるってことでしょ。今趣味がある人は、それに固執して自分とは趣味が合わないからって拒絶するじゃないか。でも、趣味がなければ何にでも入っていけるよね。だから、最高の趣味だと俺は思うよ』
今まで無趣味だといって褒められたことなどなかった。
趣味がないなんて、なんと可哀相な人なのだろうと蔑みの目で見られることはあっても、褒められることなどなかったのだ。
ルミは楽しそうに笑うタクに
『何時に集合ですか?』
と聞いていた。