4.無趣味という趣味(1)
その日から、毎日のようにタクの放送を聞くようになった。
時にはコメントを書いたりもできるようになっていた。他の人たちと同じように、一言のコメントを書き込むだけで、心の中のもやが薄れていくような気がした。
殆ど放送のない日などないのではないかと思うほど、しかも一日に何回も放送枠を取っていた。
この人は何をしている人なのだろう。
仕事は?
そんな疑問がわいてくる。
画面を見ていると、それなりに大人のように思える。話していることも思慮のある大人と捕らえることができる。
しかし、どことなく働いたことのない人独特な、甘さのようなものも感じられる。
というルミ自身、働き出して間がないのだから、大きなことは言えないのだが。
(それにしても、なんでこんなに朝も昼も夜も、一日中放送していられるんだろう)
個人的なつながりがあるわけではないのだから、そこまで突っ込んで聞くこともできず、多少のフラストレーションを感じながらも、生主とリスナーという域を出ないまま日が過ぎていった。
ところがある日、生放送終了後タクから通話申請が来たのだ。
放送が終わって、お風呂に入ってから次のタクの放送を見ようと思っていた矢先だった。
「なんで、タクさんから!」
驚きを隠せず、つい言葉に出てしまった。
生主とリスナーという枠を飛び越えて、彼が自分の庭に入ろうとしているように感じた。
しかし、パソコンの世界のことだ。さっきまで全く知らない人だったのが、今は知人となり、明日には友達になる事だってありえる。
それがバーチャルの世界だ。
ルミは、なぜかはやる心を落ち着かせるように、通話の承認をした。
『やぁ、承認ありがとう』
さっきまで多数に向けられていた声が、今は自分にだけ注がれている。この状況に妙な緊張感が湧き、手に汗が吹き出てくるのが分かった。
『こちらこそ、タクさんから申請が来るなんて思わなかったから、びっくりしました。でも、嬉しいです』
『そう言ってもらえて嬉しいよ。毎日、放送に来てくれてありがとう』
『いえ、とても楽しい放送で、こちらこそ感謝してます』
『そんなに硬くならないで』
タクの優しい笑いが伝わってくる。
『通話したのはね、来週の日曜日に集まりがあるんだけど、出てこないかなと思ってね』
『集まり……』
『毎月一回はみんなで集まろうってことでね』
『ミーティングですか?』
『いや、違うよ。あれは、もっと大人数で騒ぐんだけど、今回のは本当に身内だけ』
『身内?』
『あぁ、仲のいい友達連中ってところかな。もちろん、みんなネットつながりだけどね』
『はぁ……』
生き物を扱っているサービス業だけに、平日も休日も関係ないのが常識だ。全ては、店のカレンダーとシフトによって決まる。
『どうかな? 来週の日曜日』
『え……あ』
ルミの視線がカレンダーを捕らえた。
店の配慮で、月に一回だけ日曜日に休日を当ててくれるのだが、ちょうど来週がその日に当っていた。
公休なのだから、誰に遠慮する必要はない。それはいいが、どうしても二の足を踏んでしまう。