23.タクのいる場所(1)
どのくらい泣いたのだろう。
タクが死んでしまったことが信じられず、葬儀に参列することすら拒んだ。
最後の別れがこんなに早く来るなど、誰が予測できただろう。
ずっとそばにいる。一生、そばにいると、あれほど誓ったというのに。
こんなにも簡単に、あっけなく逝ってしまうなんて。
テーブルに置かれた小さな箱には、どす黒いシミがついている。それは、タクとの止まった時間を意味する。
「ねぇ、タク。こんなのいらないよ。私は、指輪が欲しいなんて言わなかったよ」
タクが言っていた。
「今はお金がないから、買えないけど。そのうちきっと、ルミの指に俺からの指輪をつけてやるよ」
「いつのことだろうね」
「そうだなぁ」
「でも、無理しないでね。指輪なんかより、タクと一緒にいられればそれでいいんだから」
あの日、指輪を届けに来なければ、タクは死なずにすんだ。
ルミの為に、指輪を買わなければ、タクは今も笑顔をルミに向けてくれていただろう。
気がつけば、春の風は初夏となり、セミが泣き出していた。
暑いのかどうかすら分からない、寂しくて悲しくて、いっそタクの元へいけるなら、死んでしまおうかと、何度思ったことだろう。
テーブルに置かれたカッターをじっと見つめて、切ったら死ねるかと思ったこともある。
わけの分からない薬を買ってきて、全部飲んだら死ねるかと思ったこともある。
しかし、死のうとすると聞こえてくるタクの声。
『生きろ! 生きるんだ!』
そして、タクが言っていた言葉。
『死にたいと思っている君の今は、生きたいと思いながら死んでいった人の今』
タクは笑顔で『いい言葉だろ』と言っていた。
「タク、あなたは生きたかったはずだよね。私は、タクの元へ逝ってはいけないの?」
『ルミ。ルミの笑顔が最高だよ』
どこから聞こえてきたのだろう。
頭の中に響くタクの声。
それは、笑ってと言っているのか。
『みんな、生きてほしい。死んだらダメなんだよ。生きるために、声を出して。ルミ、声を出して』
「……タク」
じっと、膝を抱えて涙した。
タクを感じ、タクを想い、タクの声を聞き。
涙が枯れることがないことを、何度も確認しながら、何度も泣いた。
夏の終りが近づく頃、ルミはパソコンの電源を入れた。




