21.5ヶ月分のリング(1)
あれから、今までに増して幸せな日々が続いている。
体調は優れず、仕事も休みがちになっているが、それでも働けるうちは働きたい。それがルミの望みなのだ。
とはいえ、今朝も体がだるくて起きることができなかった。結局、仕事は休まざるを得ない。
(ダメだな、こんなことじゃ。みんなに迷惑がかかるよ)
休んでいると時計ばかりが気に掛かる。今頃は、動物にエサをあげる時間。今頃はハウスを掃除する時間。そろそろ、散歩に行く時間だ。
結局、体は休めても気は休めないのだ。
そんなことを父に話したことがある。すると父は嬉しそうに『お前も、大人になったな』と言ってくれた。
最近では、両親が喜んだことをノートにつけるようにしている。
ルミのように、体の弱いものにでもできる親孝行が、どんなことなのかを見つけようと考えたからだ。
以前の自分は、親孝行がどんなものかも分からず、お金で済まそうとしていた。けれど、本当の親孝行とは、違うのではないかと、最近思うようになってきたのだ。
それは、人を愛する気持ちを持つようになったからかも知れない。
母に『お母さんの嬉しい事って、なぁに?』と聞いたことがある。その時、『子供が幸せなことかしらね』と笑っていた。
今のルミには、その言葉の真意が分かるような気がする。
タクが幸せなら、自分も幸せだからだ。
だから、努めて笑おうと頑張っている。どんなに、苦しくても辛く悲しくても、笑顔でいようと頑張っている。どうしても、できないときだけ、自室にこもり涙を流す。
その涙も拭ってくれる人がいるからこそ、安心して流せる涙だ。
ノートをめくりながら、そんなことを考えていた。その時、ケイタイが光った。
ケイタイを手にすると、タクからであることが分かった。
「もしもし?」
『体は大丈夫か? 仕事、休んだんだろ』
メールで『今日は休むね』と知らせていたから、心配して電話してきたのだろう。
「大丈夫だよ。美女は朝に弱いものよね」
「本当の美女ならね」
軽口を叩きながらの電話が楽しい。
「仕事は?」
『昼休みだよ。今日は、豪華にカップ麺だった』
「カップ麺が豪華って、普段は何を食べてるの」
「そうだな……同じだな」
そう言って笑う。
それじゃ、体に悪いからと言う言葉を飲み込む。
本当なら、お弁当を作ってあげたいくらいだ。だが、離れているのだからそれもできない。
(一緒に暮らしたい)
『今夜、遅くなるけど、行っていいか?』
「うん、じゃぁ、美味しいものを作っておくね」
『どうせ、お義母さんが作るんだろう』
「そんなことないよ、少しは作れるようになったんだから」
『そうか、無理しない程度にな、期待してないから』
「酷い!」
『お、時間だ。休憩、短いんだよな』
そう言うと電話が切れた。
ルミは幸せそうにケイタイを閉じた。




