2.生放送の生主
「みんな、集まってくれてありがとう」
マイクに向かって話し出す。
パソコンの向こうに、タクが大切にしてきた人たちがいるのだ。
ルミは、一言一言に思いをこめて、言葉をつむぎだしていた。
すると、画面上に多数のコメントが流れ出てくる。
その一つ一つを読みながら、ルミはニッコリと微笑んだ。
―――わー! タクだと思ったら、嫁じゃーwww
―――おー、嫁じゃ嫁じゃ!www
―――タクじゃねーのかよーw
―――タクはどうしたんだーw
ルミはそれらに応えるべく、ゆっくりと話し出した。
「知ってる人もいるとは思うけど……。タクは、亡くなりました」
―――えー(´;д;`)ウッ・・
―――マジカー―――∑(゜◇゜ノ)ノ―――!!
―――なんで死んだ?
「それは……」
放送中に話せるような、そんな簡単な話ではない。
ルミにとっては、簡単に口から出すことができないのだ。
タクが亡くなってから三ヶ月、どれほどの苦しみの中で生きてきたことだろう。
いっそ、後を追ってしまいたいとさえ思ったのだ。
けれど、タクを追いかけたところで、タクが喜ぶはずはなく、それどころか哀しむことは目に見えている。だからこそ、どんなに涙が流れても、胸がつぶれそうになっても耐えてきたのだ。
しかし、タクが大切にしてきたコミュニティを引き継いだ今、タクの死を知らせないままで終わらせることはできないだろう。
覚悟していたはずだ。
生放送をするということは、優しい言葉ばかりではなく、心をえぐられるような言葉も浴びせられる。それは、タクを見てきてよく分かっている。
かつてタクが言っていた。
『誹謗中傷? あぁ、あれはさ。こっちに入りたいって人たちからのメッセージなんだ』
笑顔でそう言い切ったタクの顔は輝いていた。
『でも、ヘタクソだとか、止めちまえとか。仲間内だけのチィパッパじゃないかとか、どれも聞くに堪えないわ』
タクの生放送を見ていたルミは、幾度となく浴びせてくる、刃を表にした言葉に唇を噛んでいた。
大切なタクが酷いことを言われているのだ。誰よりも人の為にと頑張っているというのに、なんという酷い人たちだろう。
『違うよ、ルミ。彼らはね、助けて欲しいって素直に言えないんだ。寂しい、つらい、悲しいって言えないんだよ。だから、自分の方を見て欲しくて相手を傷つけるような言葉を投げてくるんだ。そうすれば、相手は必ず自分の方をみるだろ』
(何を言われてもへこたれなかったタク。大丈夫。何を言われても、どんなことを聞かれても、タクの意志をつなげていくって決めたんだから)
ルミは俯きがちな目をしっかりと画面に向けると、ニッコリと微笑んで次の言葉を口にした。
「タクの死については、追々お話しますが、まずは彼のご冥福を祈って黙祷をささげたいと思います」
生前、タクが録音していた歌をBGMに流しながら、一分間の黙祷。
その歌声は、決して上手いとは言いがたいが、温かく優しく人の心を穏やかにしてくれる。
誰もが静かに目を閉じ、タクの歌声を聞きながら、タクの冥福を祈った。
月子もまた皆と同様、目を閉じていた。心の中では、タクが死んだという言葉が渦巻き、『嫁』だと騒がれているルミが生主を務めていることに驚いていた。
その死因が一体なんだったのか。本当にネットで騒がれていたように、自殺だったのか。もし、自殺だったら、自分は一体何を信じてここまできたのだろう。
いわれのない悔しさと不安が月子を捕らえていた。