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19.涙のプロポーズ(3)

 ルミは、ドアを開けるとタクから離れるように、後ずさりした。


 十二月の風はタクの体から体温を奪い、鼻を紅く染めていた。



(私の為に、こんなに寒い思いをして来てくれたんだね。それなのに……)


「ルミ、急にどうしたんだ?」



 コートを脱ぐことも忘れて、部屋の中央に立ったままの二人。


 見つめてくるタクに反して、目をそらすルミ。



「結婚するには値しない男だったのか。俺は、まだまだ昔のままだということか?」


「そんなことないよ。タクはステキだよ」


「適当なことを言わないでくれ。本当にステキなら、どうしてそんな態度に出る」


「……私じゃ」



 タクを見る。


 泣くまいと思っていた頬に涙が伝う。


 必死に笑おうと試みるが、どんなに笑おうとしても歪んだ笑いになってしまう。それは泣き顔にしか見えない。



「私じゃ……タクは、幸せに……なれない、んだ」


「なんで、泣くの?」


「だから、結婚はできないの。い……今まで、通りじゃ、ダメ?」



 必死に笑う。


 笑顔を作る。


 いつも、お客さんの前で出す笑顔は簡単に作れるのに、どうして今は上手く作れないのだろう。



「今まで通り? ルミは、俺と結婚したくないのか?」



 決して詰め寄ってくるわけでも、ルミをなじるわけでもない。あくまでもルミを想い、暖かく包んでくれる。



(許されることなら、ずっと彼と一緒にいたい。永遠に、彼のそばにいたい。でも、私が一緒にいれば、彼は不幸になる。それなら、他の女性と一緒になったほうが幸せなんだ)



「ルミ……。俺は、どうしたらお前の心を奪うことができる?」


(もう、奪ってるよ。タク以外にいないんだよ。私は一生、タクのそばにいるよ)


「教えてくれ」



 ルミの手をとり、握り締める。


 どんなときでも、優しくて、力強くて。決して離れることなどないと信じさせてくれる、それがタクの愛。


 その愛を感じたとき、ルミは崩れるように床に座り込んだ。


 驚きはしたものの、タクも同じように床に座り、ルミの手を握り続けた。


 涙で濡れるルミの目がタクを捕らえた。


 震えるルミの手。ルミの肩。


 何をそんなに苦しんでいるのか、ドアをはさんでいたときは、放送でプロポーズするなどと、子供のようなことをしたことに怒っているのかとも思った。


しかし、部屋に入ってルミを見れば、そんなことで怒っているのではなく、苦しんでいることが分かった。


ならば、何に対して苦しんでいるのか。それを聞くまでは、ルミの元を去ることなどできないと思われた。


今、何もせずに別れたら、明日という日はきっとルミを失い、後悔する明日になってしまうだろう。


タクはじっと、ルミの手を握り締め、絶対に離さないと決めていた。


ルミの苦しみを解くまでは、この手を離さない。



「ルミ、俺の気持ちは変わらない。たとえ、何があろうと変わらない。そんな簡単なものなら、結婚したいなんて思わない」



 分かっている。分かっているから苦しいのだ。


 これが遊びなら、どんなに楽だったろう。



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