17.涙のプロポーズ(1)
「今日の放送は絶対に来てくれよ」
時間が許す限り、タクの放送はみていた。
それは、タク自身よく知っていることだ。
それなのに、どうしてか、今日に限って見に来てくれと言う。
(何をしようっていうんだろう……)
分からないまま、夜九時から開始されるタクの放送を見ようと、パソコンの前に座った。
始まればいつもと変わらない。
いつも通り、楽しくて温かい。
タクの思いが伝わってくるような、優しい放送だ。
たくさんの仲間が集い、風を感じることの素晴らしさを伝えている。多くの人が集まるミーティングの楽しさ、誰でも参加できること、そして今正に、パソコンの前で苦しんでいる人たちへ向けてのメッセージ。
(私はタクを愛して、本当に幸せだよ)
涙が頬を伝う。
声が漏れないように、手を口に当て、嗚咽する。
次から次へと流れる涙。
(タク、ずっとそばにいたい……)
誰にも言えない苦しみを、涙で流してしまいたい。
『ということで、今日の放送はもう……あと、5分だね。この放送が終わったら、俺はルミの元へ行く』
(え? 何で、放送で言うの?)
『ん? そうだよ、俺の嫁だ』
コメントを拾いながらの放送だからだろう。コメントに『ルミ? 嫁か?』と書かれている。
『俺は、今日はっきりとプロポーズする』
―――えー! マジかー!
―――とうとうか、おめでとう
―――がんばれー
『ありがとう。だから、ルミ。待っててくれ、この放送が終わったら、すぐに行くから』
(タク……)
涙が止まらず、視界がぼやける。
(ダメだよタク、ダメ。私じゃ、あなたを幸せにできない)
放送が終わっても、パソコンをおとすことができない。
ただひたすら、泣くばかりだ。
脳裏に浮かぶのは医者の言葉。
『なんともないですよ』
そう言われると思いこんでいたのに、どうしてあんなことを言うのだろう。
神などいないのではないか。
ルミの中に浮かぶ全てへの否定。
この苦しみを誰かに伝えることができたら、楽になるのだろうか。
では、誰に伝える?
母? 父? 兄妹?
そんなことをしたら、余計な心配を掛けるばかりだ。
苦しむのは自分ひとりでいい。
全てを話すのは、最後でいい。
では、誰に話せばいい?
タク?
彼を苦しませたくない。
どこまで考えても、行き着くところは同じ。
もう、何日も同じことを考え、同じ答えにぶつかり、同じ涙を流してきているのだ。




