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16.『好き』から『愛してる』

 付き合いだして、丸二年が過ぎようとしていた。



「ルミ、明日は記念日だね」



 付き合いだした記念日や、誕生日など。タクのほうがよく覚えている。


 今日も、『明日が記念日』と言われなかったら、思い出すこともなかっただろう。この分ではもっと大切な記念日ができても、覚えているのがタクで、忘れているのがルミのほうかもしれない。



「レストランで食事をしないか?」



 画面の中のタクはいつも通り優しい。



「でも、明日は仕事だよ」


「だから、仕事の帰りにさ」



 ルミは躊躇った。


 というのも、ここのところ体調が悪く、胸の痛みが頻発しているのだ。


 さすがに、このままではまずいと思い病院へ行ったが、なんともないと言われた。子供の頃も同じように、親が心配して病院へ連れて行ってくれた。あの時は、あまりにも体調が優れないので、きっと何かあると思ったらしい。しかし、病院では異常なしという結果だった。


 だから、今回も同じだと思い込もうとしていたのだ。


 しかし、どんなに思い込もうとしても、胸の痛みは日に日に辛くなってくる。



(やっぱり、個人院では分からないかも知れない。設備の整っているようなところじゃなくちゃダメなのかも……。そうだ、隣町の総合病院へ行ってみよう……)



 そう決断するまでに、半年以上の時間が経過していた。


 始めて胸の痛みを経験した頃から数えたら、二年以上が経過したことになる。


 その結果を聞きに行くのが明日なのだ。



(でも、どうせなんともありませんって言われるだけなんだから、明日じゃなくてもいいよね。今更急いだところで、代わりはないものね)


「なんか、用事でもあるのか?」


「ううん、大丈夫。ちょっと、仕事の段取りを考えていただけだよ。社会人としてはね」


「そうか、じゃ明日は俺がご馳走するからね」


「え? いいの?」


「その代わり、俺の行きたいところに行くよ。それでいい?」


「うん、楽しみだわ」





 その約束の通り、二人は揺らめくキャンドルの下で、食事を楽しんでいた。


 いつもなら、居酒屋や大衆食堂、あるいはファミレスなどで食事を楽しむのだ。



「ここ、高いんじゃない? こんなに奮発しなくてもいいのに」


「大丈夫だよ。今日のために、頑張ったからね」



 何を頑張ったのか分からないが、それでもタクの気持ちが嬉しい。


 こういうときは、お金の心配はせずに、思う存分時間を楽しもうということになり、二人は至福のときを過ごすことに覚悟を決めた。


 決めはしたが、やはりお尻がもぞ痒い。


 次から次へところあいを見て運ばれてくる料理の数々。


 美味しいワインに、ちょうどいいボリュームの音楽。


 客の誰もが静かで品があるように見えてくる。まるで、自分たちの来るべき場所ではないようだ。


 できる限り楽しんだはずの食事も、実際のところ何を食べたのか覚えていない。


 店を出て、公園を歩こうということになり、いつもの公園を散歩しているうちにおかしさがこみ上げてきた。


 どちらからともなく笑がこみ上げ、止まらない。



「やっぱり、落ち着かないな。ああいうのは」


「ごめんね。せっかくの記念日だから、奮発してくれたんでしょ」


「でも、結局は高いところより、いつものような気さくな場所の方が美味しいってことが分かったよ。いい授業料だった」


「違うわ、いい経験をした、最高の記念日だよ」


「そうだな。でさ」


「うん」


「プレゼントを考えたんだけど、食事でお金を使い果たして、結局何も買えなかった。ごめん」


「いいよ、そんなの」


「不甲斐ないな。でも、必ずいつか」


「その気持ちだけでいいよ」


「ルミ。俺、本気だから」


「え?」



二人が同時に立ち止まり、お互いを見つめあう形になった。



「お前とのこと、本気だから」


「……」


「愛してる」



 そう言うと、力強く抱きしめられた。


 イケメンなのに、無骨すぎる愛の抱擁に



(残念だなぁ)



 と、呟きたくなる。


 しかし、付き合いだして二年。


『愛してる』なんて言葉を聞いたのは初めてのことだ。


 そしてこの時、ルミの心の中にもしっかりと、タクへの気持ちが芽生えたのだった。


 それは、『いい人』から『ステキな人』へと成長し『好き』へと育った。


 今、確かに『好き』から『愛してる』へと。



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