13.就職
幸せな日々が重なり、何枚ものカレンダーが破られ、二月という寒い季節を迎えた。
タクとルミがファミレスの片隅で薄いコーヒーを飲みながら、新しい動画の話をしているときだった。
「俺さ、実は仕事してないんだ」
唐突に語りだしたその顔は、悔しそうに見えた。
「うん」
うすうすは感じていた。
けれど、それを口にしたところで、働くことができない人もいる。
タクが働きたくなければ、それはタクの人生なのだから仕方のないことだと諦めていた。
つまりは、タクの中に結婚などという意識がないということだ。
「怒らないんだ」
「なんで?」
「ずっと黙ってたんだから、騙したって思うでしょ」
「なんとなくは分かってたから」
「それでも言わなかったんだ」
「うん」
「なんで?」
「タクが決めることだから」
「そうか」
「ルミは働いて欲しい?」
「さっきも言ったよ、タクの人生だから」
「……」
さっきまでの楽しい雰囲気がいっぺんで暗くなったように感じた。
(だから嫌だったんだ。こういう話はしたくなかった)
「実はね、明後日から働くことになってさ」
「……!」
思わず顔を上げて、タクを見た。
その顔は、優しく温かく、ルミを見つめる目は、更に優しかった。
「このままニートじゃ、ルミを幸せになんてできないだろ。俺、そんなの嫌だからさ。今までは、続くかどうか分からないからって逃げてたけど、でも今は、続くかどうかじゃなくて、必ず踏ん張る。そう決めたんだ」
「……」
「いろんなところへ連れて行きたいし、美味しいものも食べたい。ルミと一緒だったら、きっと楽しいと思うんだ」
(なんでこんなところでそんな大事な話をするのよ)
目じりが熱くなる。
(泣くに泣けないじゃない)
涙がこぼれる。
(こういうことは、もっとムードのあるところで言ってくれないと)
涙が止まらない。
(タク、鈍感……)
「ルミ? どうしたの。泣くなよ」
さっきまでテーブルの脇に置かれていた、お手拭を差し出してきたタク。
(タク。それ、さっきテーブルの汚れを拭いたヤツだよ。でも、今は黙ってよう)
ルミはお手拭を手にすると、そっと涙を拭いた。




