nameless android -名無しのアンドロイド-
電子砲のビームと熱風が、ビルの立ち並ぶ都会を埋め尽くす。
その中に女性のようなスタイルのアンドロイドがいた。
彼女は戦場を縦横無尽に駆け抜け、両手に抱える電子砲で敵軍を正確に撃墜していく。
ミサイルを撃つヘリを、瓦礫を乗り越える戦車を、最新のパワードスーツを身に着けた兵士たちを、彼女は一人で倒してゆく。
「彼ら以外を私は信じない!」
ただのAIとは思えない、力強い声をつぶやきながら、彼女は電子砲を放つ。
「帰ってくる気はないのかい? 失敗作よ」
ふと、頭に音が響く。これは彼女を作らした政府の重鎮の声。
こいつの声は聞きたくない!
彼らの声が聞きたい。私なんかを助けてくれた、彼らの声が聞きたい! 彼女は思う。
二時間前、彼女はとある二人の助けで研究所から逃げ出したが、そのときはぐれてしまったのだ。
だが敵に捕まってはいないだろうかと、彼女は逆に彼らを助けるため、忌々しい研究所に戻ってきたのだが・・・
今彼女を取り囲むのは、敵国の侵略兵ではない、政府軍だ。
彼女を捕獲するためだけに結成された部隊。
「政府軍に一人は、少々無謀でしたか・・・」
そういいながらも、迫りくる敵兵から逃れ、研究所にたどりつく。彼らはここに居るはずだと。
しかし、突然彼女の足から力が抜ける。
「え・・・?」
彼女は間抜けな声を発しながら、何も出来ずに地面に倒れる。
そこに再び政府の声が響く。
「穏便に済ませたかったが、強行手段に出さしてもらったよ。お前なんぞ他にいくらでも替えがあるからな」
身体を制御する機能が乗っ取られたのだ。
彼女は歯軋りし顔をゆがめる。実際は一ミリも動いていないのだが。
そこに、戦車と歩兵が近づいてくる。
パワードスーツを身に着けた歩兵の一人が、彼女の腕を掴み持ち上げる。
「止め・・・て・・・」
彼女は言ったが兵士は無視して戦車へ引きずる。
やはり使い捨てとして捨てられるのだろうか? とふと彼女は思う。
「助け・・・て・・・だ・・・れか・・・」
声ももう出ない。
だから彼女は心で叫ぶ。
助けてよ!!
同時、彼女の腕を掴んでいた兵士がバサッと倒れる。
彼女が見ると、いつのまにか二人の剣士が立っていた。片方は黒、片方は白。
白の剣士が彼女に手を伸ばし、抱き上げる。
「大丈夫かい?」
黒の剣士が血の付いた剣を振り、鞘に収める。
「戻ってくるなって言っただろ」
突然現れた敵に、政府軍は慌てて増援を戦車から出動させる刹那、取り囲んでいた全ての戦車が爆ぜる。
黒の剣士が斬ったのだ。
彼女が気づくと、すでに回りに展開していた、ヘリ・戦車・兵士が居なくなっていた。
白の剣士は、彼女を立たせ言う。
「またあったな。妨害電波はすでにシャットアウトしておいたから動けるはずだよ」
そういわれて白の剣士を彼女は見る・・・首が回る。
地に足を着ける・・・もう立てる!
そうして再び助けられた彼女は言う。
「どうして・・・私みたいな失敗作を・・・二度も救ってくれたんですか?」
彼女は、自分自身を失敗作と呼び、心が痛む。
それを見た黒の剣士は呆れて言う。
「ちゃんと自分を見て言うこった。誰かのことを心配できて共感できるなら、お前はもう立派な人さ」
そう、彼女は泣いていた。
AIには無いはずの感情を、彼女は持っていた。
「ありが・・・・・・」
彼女がお礼を言おうとするのを、白の剣士が人差し指で唇をそっと押さえて止める。
「お礼は、もうちょっと待ってくれ」
彼がそういうと、爆音とともに何かが降ってきた。
政府が作り出した『第二世代型・無人二足戦略兵器』その威力は一つで要塞を陥落することが可能といわれている。
それを見て、剣士二人は即座に抜刀する。
「まだ着いて来たのか・・・しつこいぞ」
黒の剣士がダルそうに言う。
彼女は、そんな二人と兵器をみて
「私も一緒に戦わしてください!!」
と真剣に言う。
それを見た二人は肩をすくめ、
「言うと思った。じゃあ・・・やるか!」
叫んだ。
三人は同時に動き出す。
アンドロイドが電子砲で牽制し、剣士は地を蹴り兵器の足を切裂きなぎ倒す。
数とスピードで一気に攻める三人に、兵器は負けじと両手を振り上げ地面に叩きつける。
ドオオォォォォォオオオン!!!
直撃を避けた三人だが、それから出る爆風と衝撃波に吹き飛ばされる。
そしてここは都会、衝撃波と振動は、高層ビルの窓ガラスを一気に砕き、鋭利なガラスの雨を降らせる。
「ぐがぁぁっ!」
白の剣士が苦痛の声を上げる。
図鑑の様に大きなガラス片が背中に刺さっている。
黒の剣士がすぐにそれを引き抜こうと手を掛ける。
しかし、無人兵器はじっとしていない。
ひときわ大きく振りかぶり、巨大な拳を三人に向かって放つ。
ドオオォォォォォオオオン!!!
爆音と爆風、舞い上がる砂塵。
巨人の手は確実に三人を叩き潰したはずだった。
心無き兵器と、二人の剣士は見た。
そう、アンドロイドが一人で巨大な腕を押しとどめていたのだ。
しかし、彼女のいたるとろに無数のひびが入っていた。
見るのも痛々しい傷が付いていた。
しかし、彼女は苦しみに顔を歪めることなく告げる。
「これで、終わりにします!!」
巨大な腕を押さえながら放った一言と同時、彼女の胸から光があふれ出す。
その光は凝縮され、一つの大きな玉となる。
だが、玉が大きくなるにつれて、彼女のひびが増えていく。
それは、強力な攻撃のための自滅技。
それに気づいた黒の騎士は叫ぶ。
「オイ止めろ! 死ぬぞ!」
しかし、その言葉が彼女の耳に届く前に、大きな玉は一直線に兵器に飛んで行き、巨大兵器を木っ端微塵に破壊する。
そして、兵器の破片が地面に落ちると共に、彼女も真後ろに倒れる。
「大丈夫か!!」
二人の剣士が声をかける。
すると、彼女はうっすらと微笑む、安堵と安心に満ちた微笑。
「大・・・夫・・・。私は・・・今、幸せだから・・・恩人を守ることが出来た・・・・・・。存在を・・・認めてもらえた・・・・本当に、ありがと・・・・・・・・・・・・」
笑顔のまま彼女の時間が止まる。
人に認めてもらえたアンドロイドが、永久に止まった。