田中誠
誠は職が無くとも、日中、家に居る事はしなかった。
義理の娘であるリサが、小学校に行くのを見届けると、誠も家を出た。
妻の真由美は、仕事を理由に家を空ける事が多くなっていた。
誠が日中、新居を空ける理由は、もちろん周りの眼を気にしての事もあるのだが、それよりも新居のあの独特の臭いを嗅ぐのが辛かった。
新しい家族が出来て、心機一転、心を弾ませて購入した新居。
頭金は全て誠が払った。
全部の貯金を投入した。
前夫婦では子供が居なかったため、久しぶりに味合う家族団欒の楽しさ。
初めまして味合う子供との遊び。
そういう思い出たちが、新居の臭いの中に想念と連結し、条件反射のように浮かび上がるのだ。
全てが上手く行くと思っていた。
しかし半年後、誠は失業し、無一文になった。
真由美は自分の通帳を持っていた。
決して夫婦共有のものではなかった。
誠はアルバイトをしながら正業を探さざるをえなかった。
誠はハローワークに通い続けた。
誠にとって職は渇望するものであるが、本当に求めているものは、真由美の誠に対する愛の復活であった。
真由美は社長である。
誠はへたな職に就くわけにはいかなかった。
夫としての威厳を取り戻さなければならなかった。
真由美が納得する職に就きたかったが、この時代は不景気である。
誠は出口のない八方塞がりの境遇に、自己のふがいなさで押し潰されそうであった。