川夫と川子の旅・1
川夫の本名は川村秀夫、その妻川子の本名は川村洋子といった。
二人は町外れの、すこし傾斜になった山の中腹に来ていた。
そこは墓地であった。
。墓地は盆地になった街を一望し、その向こうには、日本海が青く広がっていた。その墓地を境にして、山の上は鬱蒼とした樹木が生い茂り、強い雨音が豊富に繁った木々に吸収され、セミの音が大響音で鳴り響いていた。
竹崎真一と六人が、二人の旅に伴って連れて来られたのは、日本海を遠方に望む、小さな山間の街であった。
あきらとあけみの旅が終了した後、車を走らせ、この場所に着いたのは前日の夜遅くであった。
一同は宿をとり、朝早く、川村夫妻は意を決して出かけた。もちろん竹崎の激励があり、皆の優しい眼差しの後押しがあった。
道中、川村夫妻から聞いた内容は皆の心に言いようのない虚しさを生んだ。宿を取る時も、旅館の従業員に竹崎は川村夫妻の面を明かさない配慮をした。この街に近づくに従い、川村夫妻は顔を上げる事はしなかった。
川村夫妻がネットで写真が晒されたのは、三年前であった。
晒されたのは、夫妻だけでなく、一人息子の和也と共に、ご丁寧にも住所と父親の会社名までも載せられた。
その題名は「失恋の逆恨み殺人の犯人とその家族」であった。
この行き過ぎの書込みに、マスコミが反応した。
マスコミが騒ぎ出す程に、一層の衆目の晒し者となって行った。
川村家の悲劇の始まりである。