絆3
女は病気について説明した。
うなだれた赤ちゃんの手を優しく握りしめ、力の入らない指を動かしながら。
(※ポンペ病とはライソゾーム病の一種である。人の身体は何億もの細胞で作られており、常に新しい細胞を作るための新陳代謝を行っている。その新陳代謝に欠かせないものが、分解酵素である。その酵素が先天的に欠落して起こる病気がライソゾーム病である。
その欠落した酵素の種類によって、病名が付けられており、ポンペ病はαーグリコシダーゼの欠落により起こる病気である。
15万分の1の確率で起こる難病である。)
上記の説明を、女は素人口調で真由美に説明した。
「要は身体に必要なものが欠けているのね。」
真由美は母親として、過酷な現実と相対している目の前の女に同情していた。
もし愛子のリサがこの病気にかかっていたらと想像するだけで、身の毛がよだつ。
真由美は必死に、何か勇気付ける言葉を探した。
「でも今の医療の進歩は早いわ、希望を持ちましょう。」
この言葉は真由美にとって、ベストな励ましだと思った。
女は赤ちゃんの手を動かしながら、ニコリと微笑む。
「ありがとうございます。」
女は赤ちゃんの顔を見て、顔を上げて真由美を直視した。
そしてすぐに目線を下ろし、悔しさを含んだかすれた声で語り出した。
赤ちゃんの目は変わらずにうつろであった。
しかし明らかにずっと母親を見ていた。
すがるように。