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ラセン  作者: 天咲賢治
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祐一と亜利沙

祐一はその日、経理主任の山口亜利沙を食事に誘った。


祐一と亜利沙に関係のある人々から、完全に見られる事のない、会社から遠くにある高級フランス料理店を予約した。


祐一は亜利沙より先に、店に着いた。

タクシーから降りて店内に入ると、個室に案内された。

まだ時間が早いため、店にはお客が疎らだった。


個室からは、シャンソンが流れ、黒光のするテーブルやイスが高級感を与えていた。


壁の絵画は淡い海辺の油絵である。


程なくすると、亜利紗が到着した。


「遠くまでごめんなさいね。」


「いえいえ

今日はお招きいただきましてありがとうございます。」


亜利沙は満面の笑みを称えた。


コートを脱ぐと亜利紗は白のスーツ姿であった。


ヒールを履くと祐一よりも少し低い位の身長である。


華奢な体付きではあるが、大きな胸と細いウエスト、スカートから伸びる長く細い脚。


コートを掛ける動作、スーツを脱ぐ時の了解を求めるタイミングなど、全ての行動と言動が、女としての品を漂わせていた。

社内の男達が魅了されるのも、改めて祐一にはうなずけた。


「場所はすぐに分かったかな。」


「はい、タクシーの運転手さんがご存知でいらっしゃいましたので。」


祐一はあらかじめタクシー代を亜利沙に渡していた。


お釣と領収書を手渡しながら、亜利沙はウェイトレスが引いた席に着いた。


ウェイトレスに対して、ちゃんと目を合わせて「ありがとうございます。」

という気遣いも忘れない冷静さである。


改めて亜利沙と顔を向かい合わせると、その美しさに祐一は赤面する程のときめきを感じた。


「部長、この度はおめでとうございます。」


「いやいや、ありがとう。

皆の頑張りのおかげだよ。

特に山口君には助けてもらった。

感謝するよ。」


「いえいえ、私なんかご指示に従っただけです。」


「そんな事はないけど、まあ今日はプロジェクトの成功祝いということで乾杯しよう。」


「はい、部長ありがとうございます。」


二人はワインで乾杯した。


バラード的なシャンソンの音色が会話を滑らかにした。


亜利沙は、祐一すら忘れていた細かい指示に対して、感謝を述べた。


祐一は久しぶりに接する、女性の優しさという魅力、に心を奪われた。


前菜が運ばれ、二人はフルコースを楽しんだ。


見つめ合う二人の心は、時間と共に、より一層、近くなって行った。



「今日のお食事の事は、奥様はご存じなんですか。」


急に亜利紗は悲しい表情で言った。


「山口君、実は僕は離婚したんだ。」


「えっ・・」


亜利紗は本当にびっくりしたようだった。


そして、悲しみの表情から嬉しそうな表情を作り、一瞬その少し潤んだ大きな眼を、祐一から逸して言った。


「じゃ、私にもチャンスがあるって事ですね。」


下に逸した瞳が、輝きを持って再び祐一に注がれた。


ワインの酔いで亜利紗は一段と色っぽさを増していた。


祐一はその言葉と表情に、言い尽くせない程の愛しさが沸いて来た。


肩まである髪を亜利紗はかき上げた。


髪から発せられる甘味な香りが、祐一には今まで嗅いだ事のない、天上の最高の香りだと思った。


店から出た二人は、肩を抱き合っていた。


タクシーに乗ってからは手をつなぎ合い、亜利紗は祐一の胸にもたれかかった。


祐一は優しく肩を抱いてあげた。


ホテルに到着し、そこで初めて二人は結ばれた。


利沙の透き通る白い肌が、赤く熱を帯びながらベッドの上で官能のまま、なまめかしく、ゆっくりと震えながら動いていた。


祐一は優しく目の前の、愛しい肌に唇をゆっくりと重ねていく。


その度に、亜利沙の小さな唇から、感じるままの喘ぎ声があがって行った。


祐一は唇を全身に這わせ、両手で亜利沙の全身を愛おしむように擦っていく。


それに応えるように亜利沙は華奢な身体をくねらせ、悶えていった。


亜利沙の身体が弓なりになり、のけ反る。


その動作は時間と共に妖艶さを増して行った。


声はその動作と共有するように段々と大きくなる。


亜利沙は決して男を知らない身体ではなかった。


しかし祐一のように、心から愛されていると思ったのは初めてであった。


亜利沙は男女の営みで初めて絶頂という感覚を実感して行く。


祐一が愛しく唇でなぞってくれる場所、また愛撫している手のひらに触られる場所が、全部気持ち良さを通り越した「性感帯」になって行くのを知った。


亜利沙が逝くたび、二人は長く唇を重ねあう。


登り詰めた後、祐一はエクスタシーが引いていく余韻を与えずに、亜利沙を優しく愛し続けた。


亜利沙に対する思いやりが何回も亜利紗を逝かせた。


結合する前に亜利沙は何度登り詰めたか分からなかった。


長い愛撫のあと、祐一は亜利沙の中に入って行った。


結ばれた状態で、祐一は亜利沙を抱き抱えた。


「亜利沙、愛しているよ。」


「祐一さん・・

愛して・・

ます・・」


亜利沙は悶えながら言った。


切ない程の美しい声。


祐一は亜利沙の中を優しく突いていく。


亜利沙は、もう死んでもいい、とすら思えるほどの最高絶頂を生まれて初めて祐一から与えられた。


亜利沙の中に入ってくるものが、奥に入るたび、亜利沙は絶頂に何度も身体をのけ反らせ、歓喜の喘ぎを発した。


その動きは、優しい程にゆっくりしたものである。


あくまでも亜利沙の感情に応えたスピードである。


その日、亜利沙は最高の頂上に達した時に、祐一も逝った。


亜利沙は涙を流しながら、女性が発する声でない叫びをあげて逝った。


祐一も人間が出すことはない「獣」の声を出しながら逝った。


二人はこのように結ばれた。



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