絆2
店は出窓になっており、その手前側にはいくつもの鉢植えのクレマチスが、窓外の猛りに怯える事もなく、凛とした姿で大きな花弁を携え、ラベンダーピンクから白色と艶やかに咲き乱れている。
「赤ちゃん、少し鼻声ね。」
「はい、生まれつきなんです。」
女は真由美に笑顔を見せながら手にしていた手提げ袋から、ある器具らしき物を取り出した。
先ほどは嬉しそうに手足を動かしていた赤ちゃんが、全くといっていいほどに動いていなのに気づいた。
眠っているのね。
真由美はそう思った。
女は器具にホースを繋ぎ、ある物を取り付ける。
それは鼻マスクであった。
女は赤ちゃんを両手で抱き上げる。
赤ちゃんは両手をぶらんと下げ、女の膝の上に収まった。
そしてゆっくりと鼻マスクを赤ちゃんの口にあてがい、スイッチを押す。
ブーンという音が店に低く響いた。
子供の目が開き、母親を見つめる。
手が力なく垂れ下がっている。
先ほどの地上に生まれた喜びのほとばしりがウソのように、目は虚ろで生気が無い。
「その器具は?」
真由美はすぐさまに聞いた。
「人工呼吸器です。」
女は赤ちゃんの目に慈愛に満ちた笑みを送りながら答えた。
赤ちゃんの目は酸素を送り続けても、一行に生気を取り戻さなかった。
真由美はその女の慈愛の笑顔に、愛子であるリサをあやしていた過去をだぶらせていた。
女は真由美に目線を向けると、静かに笑顔で微笑みながら言った。
「この子は不治の病に侵されています。」
真由美は驚いた。
言葉が出ない。
「ポンペ病の小児型。
呼吸不全が起こりますので、こうやって人工呼吸器を持ち歩いているんです。」
女は言い終わると、赤ちゃんに慈愛を送り続けた。
真由美は一緒の母親として、気の毒に思った。
ここで窓辺に咲き誇るクレマチスの花弁が一枚、ひらひらと落ちて行った。
真由美の邪気を一つ吸い取ったために。
「不治の病?」
真由美は小さな声で問いかけた。
「はい、この子の場合、治りません。」
真由美はリサが健康体である事に、感謝した。
クレマチスがまた一枚、花弁を地に落とした。