あきら兄妹の旅・頼みの綱2
白い閃光が、カクカクと怒りを含んだ刀の筆跡のように天上から落ち、ドカンと雷鳴を轟かせた。
「ギァー!」とロングが丸まって奇声をあげた。
先程から、あけみがあきらの胸に身体を預け、顔を両手で押さえて泣いていた。
更に雨が強くなり、地面から白い雲のような飛沫を上げていた。
あきらはまた現実に戻った。
しかし、妹の胸に持たれる身体が、あの日のように震えていた。
一瞬の現実は、また直ぐにあの日へと戻された。
あきらは妹の顔を確認するのが怖かった。
焦点の合わない、宙に浮いた目。
への字になった口。
あきらは妹の背中をさすりながら、今は人手に渡った施設を睨んだ。
雲のような飛沫の上に建つ施設には、自分の名前は無かった。
あけみは顔を上げた。
変形など全くない、品のあるあけみがいた。
あけみは兄に笑顔を見せたかったが、涙でくしゃくしゃになりながら、一言、施設を眺めながら言った。
「蜃気楼…
まぼろしみたい…」
二人は施設を見つめた。
「本当だな。」
あきらは応えた。
雨の作った白い雲は、この工業団地の地上を覆っていた。
雲の地平線にいくつもの古びた施設が、均等に突き出していた。
二人は手を握り、小さくうなづきあった。
竹崎は二人の、心の会話を確認すると、
「真っ直ぐでいいですか?」
と聞いた。
「はい、お願いします。」
あきらは先の表情から解放された明るい表情で言った。
「会長、ありがとうございました。」
とあけみが言い、二人は、深く竹崎に対して頭を下げた。
「いえいえ。」
竹崎は笑顔で応えた。
他の四人は静かに見守っていた。