輝く木の想い
光り輝く木の最終目的は、人間たちを、楽園と言われる幸せな国に導く事である。
楽園は、邪悪な魂が侵入出来ないように、結界が施されてある。
結界は、見渡す限りの大きな川である。
そこには幾つかの門がある。
それぞれの門の前には、光り輝く木が選んだ、善の心しか持たない、み使いたちが立っている。
地上での役目を終えた人間の魂は、み使いの前に導き出される。
そして、どのような霊も、労りの言葉を与えられる。
やがてみ使いは、川を渡らせる為に、船に乗るように、霊に勧める。
み使いは、魂に、
「何事かあっても、赦してやるように。」
と、言って送り出す。
そして、楽園に入る為の、最後の試練が待っている。
川には、風も音も流れも無く、明かりが川面を眩しく照らしている。
ゆっくりと船は川岸から離れ、動き出す。
向こう岸は、白い霧の壁に覆われていて全く見えない。
すると、自ら歩んだ下界の生活が、川面に映し出されていく
霊は懐かしさで、映し出される映像に食い入る。
もちろん見たくないステージもあるが、映像は隠さず映していく。
始めは霊の善行が、映し出される。
細にわたり、霊魂たちが忘れていた事まで、細かく記憶されている。
その次に待っている映像は、霊魂たちの悪行である。
ここで発狂するかのように、頭を抱えて船の上で懺悔する者がほとんどである。
その時、懺悔する霊魂は、生前に犯した罪が、その時に許される。
しかし、川面に映し出された者に対して、大声で罵声を浴びせる霊魂がいる。
叫びは、聞くに耐えない罵倒の羅列である。
そこで悔やむどころか、憎しみが甦り、川面に写る者に対して、拳を振るう者もいる。
憎しみが走った瞬間、船がゴムのような軟体物になり、その霊を、球のように包み込む。
そして、川の奥底にゆっくりと廻りながら、沈んでいく。
輝く木が、最後の悔い改めを与えたにも関わらず、憎しみを抱いて、地に落ちて行く霊魂たちは、後を絶たない。
その昔、セバスチャンも、この川で球になった。
その兄であるルドルフも、セバスチャンの妻であるアンナもそうであった。
輝く木は、愛の存在である。
セバスチャンの霊魂を、井上祐一として蘇生させた。
次の人生では、
「人をも、自らも殺すなかれ」
と祈りを込め、玉を割った。
セバスチャンの妻であるアンナの霊魂を、真由美として蘇生させた。
次の人生では
「自分のように、人を愛するように」
と願いを込め、玉を割った。
さて、裁判官サンチェスであるが、彼は玉に囲まれる事なく、川を渡りきった霊魂であった。
しかし、川を渡った世界では、一番下の層にいた。
神は魂の力を上げるために、誠として蘇生させた。
次の人生では
「行動で人々を助けなさい」
と祈りを込めて送り出した。
蘇生された霊魂たちは、純白に再生させられて、喜び舞うように、螺旋の軌道を描いて、地に放たれる。
地に着く間、次の人生で関わりを持つ霊魂たちが、集まってくる。
そのの軌道は、うねりを増し、蘇生を喜ぶように光り輝くのだ。
ここで、弟の妻を汚した、セバスチャンの兄であるルドルフであるが、まだ罪に対する苦しみの償いが終わっていないため、蘇生は許されていなかった。