表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラセン  作者: 天咲賢治
15/48

手紙、二

手紙、二


どうしてもお礼が言いたくて、お手紙します。


僕は住み込みで、料理の修業をしているものです。


僕は中学の時にぐれていて、親に迷惑をかけていました。


就職も、父が頼み込んで、やっと許可してもらった日本料理店でした。


料理の修業はつらく、僕はいつも店の寮を逃げ出す事しか考えていませんでした。


入店して二ヶ月後の僕の十六才の誕生日の日、突然両親が店にやって来ました。


近くまで来たついで、とだけ言ってすぐに帰ってしまいました。


その時は、はっきり言って、うざかったです。


わざわざ、何にも出来ない俺を見に来やがったんだ!


なんて怒りに近いものがありました。


その時に、

「この店にずっと根付くように。」

と、サボテンの鉢を置いて行きました。


その日、親方が僕を呼んで話してくれました。


「○○、親が子供を心配するのは当たり前の事だ。


ご両親は本当はお前を抱きしめたかったろうな。


なぜ、早く帰ったか分かるか?


お前の心が折れるのを心配だったんだ。


優しい言葉をかければ、お前は親に甘えて家に帰るだろう、と心配したんだ。


今は辛抱するか、逃げるかの境目だ。

ご両親、最後に、

「よろしくお願いします。

と言って泣いていたぞ!


来年、二人を招待する気持ちでやってみろ!」


僕は部屋に戻って、両親の気持ちを思って泣きました。


それから僕は、一生懸命頑張って修業しました。


そんなある日、突然母が死にました。

交通事故でした。

言えないほど、悲しかったです。

絶対に俺の料理を食べさせてあげるという夢が、半分失くなりました。


一年が経ち、僕の十七歳の誕生日が来ました。


親方のご好意で、父を店に招待出来ました。


僕の夢が叶う日。


僕は前日から、心を込めて父のために仕込みを始めました。


その時、親方から、

「バカヤロー!

お二人様分だろうが!

と怒鳴られました。」


その時は(無駄なのにな?)としか思いませんでした。


当日、父は僕に、

「去年送ったサボテンの鉢を俺の横に置いてくれ。」

と言いました。


腕を振るった会席料理が始まりました。


水菓子を、そしておしぼりと日本茶を出し終え、僕の夢が果たされました。


と、その時、


父の横にあるサボテンの鉢から、


「○○君、お誕生日おめでとう。」


と父と母が一緒に言ってくれているのです。

それも繰り返し、繰り返し。


父は俯いて、大粒の涙を流していました。


僕は何が起きたか分かりませんでした。


すると父が、

「封筒が二つ入っているから、後で見なさい。」


と言いました。


父は親方に、まるで頭を床に付けるかのようにしてお礼を言い、喜んで帰っていきました。


その夜、僕は封筒を開ける前までは、喜びよりも、失敗せずにやり遂げた達成感の方が強かったです。


それから、ゆっくりと封筒を手にしました。

そこには父からと、母からのそれぞれのボールペンで書かれた手紙でした。


去年の誕生日前に書いてくれていたものでした。


今は亡き母の手紙には、こう書かれていました。


「○○ちゃん、今日のお料理、とっても美味しかったわよ、世界一。」


父も、

「美味しかったよ。」

と書いてくれてました。


父も母も、去年から今日の事を見越して書いてくれていたんです。


涙が溢れました。

そして思いました。


「なんて俺は馬鹿なんだろう!


親の気持ちも分からずにグレやがって!」


そしてすぐに気付きました。


親方の

「二人分」

の意味が!


そして、鉢植えのボタンを押すと、母の声がいつでも聞けます。


くじけそうになると、いつも母の声を聞いています。


タケザキ様

この度は、父と母に最高の親孝行が出来ました。


このご恩は一生忘れません。


本当にありがとうございました。



−福岡市−


その後、誠は残り全部の手紙を読んだ。


それにはどれにも感謝の言葉と、それに至ったそれぞれの人生が書かれてあった。


誠は「タケザキ」

で働く従業員達の、愛社精神、勤勉、熱意などを新ためて理解した。


「もう一人では泣くまい。」


誠は心に誓った。


「全員で感動の涙を流すまでは。」


夜の闇は、最高の暗闇を過ぎ、徐々に朝の明るさを増しつつあった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ