第八話 妹の魔導灯
「お兄ちゃん。おばけがいる」
夜中、ミアに起こされた。
「おばけ?」
「お部屋で、ぴかぴかしてる」
眠い目をこすりながら妹の部屋へ行く。
枕元に置かれた小さな魔導灯が、明滅していた。
点く。
消える。
二回素早く光り、少し間を置いてまた点く。
「おばけじゃなくて、壊れてるだけだよ」
「壊れてるほうがやだ」
もっともな意見だ。
魔導灯は、ミアが三歳になった時に父さんが作ったものだった。乳白色の石を木枠にはめた、手のひらほどの小さな灯りだ。
明滅する光へ意識を向ける。
薄いコードが現れた。
brightness = 3
mana = 1
create_light(brightness)
見えている範囲に異常はない。
さらに奥を追おうとすると、文字が赤く霞んだ。
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他人の魔法だけでなく、魔導具も勝手には編集できない。
正直、ほっとした。
触れた道具を何でも書き換えられるなら、便利より先に怖い。
「父さんを起こそう」
「お兄ちゃんが直せないの?」
「俺はまだ、見て調べるだけ」
「世界一なのに?」
「世界一になる予定なの」
工房での宣言を聞いてから、ミアは俺をもう世界一だと思っているらしい。期待が重い。
父さんを呼ぶと、魔導灯を持って工房へ移動した。
「まず魔石を外す」
眠そうにあくびをしながらも、父さんの手順はいつも通りだった。
魔力の供給を切り、外装を開く。
「さっきは、二回光って止まるのを繰り返してた」
「一定か?」
「だいたい同じ」
父さんは別の魔石をつなぎ、布をかぶせて明るさを確認した。
今度は点滅しない。
「魔石が古い?」
「決めつけるな」
元の魔石を、別の試験灯へつなぐ。
試験灯は安定して光った。
魔石単体は正常。
父さんが魔導灯の導線を軽く曲げると、また二回明滅した。
コードの端に、警告が走る。
ManaSupplyWarning: interrupted
「魔力が途中で切れてる」
「どこだ?」
俺は目で導線を追う。
警告が強くなる位置と、父さんが線を曲げる場所を比べる。
「石のすぐ下。この辺だと思う」
父さんが導線の覆いを外した。
中の細い金属線が、半分ほど切れている。
「よく分かったな」
「光り方が同じだったから。魔力が通って、切れて、また通ってる」
「なるほど」
傷んだ部分を切り、新しい導線をつなぐ。
魔導灯は、今度こそ安定して光った。
「直った!」
工房の入口から見ていたミアが駆け寄る。
父さんが灯りを渡そうとして、俺は止めた。
「待って。もう少し点けておこう」
「眠い」
「部屋でまた消えたら、もっと嫌だろ」
「やだ」
「じゃあ試験」
十分点灯。
一度消して、もう一度点灯。
木枠を軽く揺らす。
魔石を外し、つなぎ直す。
異常なし。
父さんがうなずいた。
「返してよし」
ミアは魔導灯を抱え、今度こそ嬉しそうに笑った。
「お兄ちゃん、直してくれてありがとう」
「直したのは父さんだよ」
「でも、お兄ちゃんも見つけた」
「二人で直したんだ」
父さんが言った。
その一言が、妙に胸へ残った。
俺には警告が見える。
でも、導線を交換する技術はない。
父さんにはコードが見えない。
でも、俺が怪しい場所を伝えれば、原因を確かめて直せる。
一人で全部できなくてもいい。
それぞれに見えるものと、できることを持ち寄ればいい。
「ねえ、お兄ちゃん」
「何?」
「もう、おばけ来ない?」
「たぶん」
「たぶん?」
「絶対って言うと、あとで困るから」
父さんが吹き出した。
「お前、十歳のくせに嫌な職人になりそうだな」
褒められたことにしておこう。




