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第7章:指輪の重さと「非常階段」の誘惑
瞳の指輪は、結婚三年目にして鉛のような重さを帯びていた。
夫・康介は非の打ち所のない「善き夫」であり、その気遣いは精密機械のように正確だった。
しかし、その正確さこそが瞳を追い詰める。
彼は瞳の「揺れ」にだけは、決して気づかなかったからだ。
レスが続いて数年。
瞳は康介ではない「誰か」に人生を壊してほしいと願うようになる。
その標的として選ばれたのが、同僚の拓だった。
瞳は無意識を装いながら、緻密な計算に基づき拓を誘惑する。
裏アカという聖域を持つ拓にとって、瞳の告白は劇薬だった。
二人が一線を越えたのは、社内の非常階段だった。
冷たい鉄の感触、誰かに見られているかもしれないという密室の恐怖。
それは興奮へと形を変え、瞳は拓の体温に溺れていく。
だが、その背後には常に「第三の視線」が潜んでいた。
拓の裏アカを特定し、二人の不倫を「素材」として観察し続ける部下・純の存在である。
瞳は「拓のすべて(性癖)を受け入れる」と宣言することで彼を独占しようとしたが、その傲慢な愛の影で、純という名の「記録者」が牙を剥き始めていた。




