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(7)重蔵の外出


 重蔵が大溝に来てから半年後、外出が許可されるようになった。

 重蔵が日々心穏やかに暮らしており、詰所の者たちとも談笑したりして、自死に及ぶ懸念はないとの報告を受けた左京亮は、民部に指示した。

「爺、ずっと座敷牢内で起居していては身体に差し障りがある。時折は座敷牢を出て、歩き回ることが必要だ。月に二度ほど近藤先生の外出を許可いたせ」

「確かに殿の言われる通りかもしれません。外出を許可いたしましょう」

 外出には定番士数名が付き添い、行先は藩主分部(わけべ)家の菩提寺である臨済宗円光寺と、その両隣にある(ずい)雪院(せついん)、日吉神社までと定められた。大溝陣屋からは約六町ほどの道のりである。

「気持ちのいい秋空だ」

 初めての外出日は好天であった。重蔵は久しぶりに外の空気を思い切り吸い込んで、伸びをした。体力が衰えているせいか、歩くとすぐに息が切れた。重蔵は休み休み歩を運んだ。

 円光寺では、歴代藩主の墓を詣でた後、本堂で参禅した。

 外出から帰ると疲れが出た。重蔵は座敷牢で横になりながら、この日訪れた円光寺周辺の豊かな自然を思い浮かべていた。

 その翌日、重蔵は詰所の定番士たちを座敷牢へ呼んで、言った。

「この地には多種多様な薬草が繁殖しているようだ。わしは本草学の書物をまとめてみたいと思う。そなたらには薬草の採集をお願いしたい」

「はあ」

「わしみずから採集したいのだが、なにぶん外出は限られておる。しかも高所にある薬草の採集は、わしの足ではもう無理だ。若いそなたたちの協力が必要なのだ。ぜひ頼む」

 一馬や秋蔵を含め、定番士たちは重蔵の依頼を受けて、交代で近隣の野山へ出向き、薬草を採集した。藩医から本草学の本を借り受けて、薬草の品種を照合する作業も重蔵と一緒になって行った。

 重蔵の半生は、勤めと相まってつねに著述活動を伴っていた。長崎や蝦夷地での活動記録もそうであるし、御書物奉行時代、御書物蔵(紅葉山文庫)の管理の傍ら、そこに保管されている名書、珍書、稀覯本(きこうぼん)を読破し、公儀の外交記録や文化事業の沿革について書物としてまとめていた。著述をすることは重蔵にとっては呼吸することと同じぐらいに生理的な欲求であり、重蔵が生きるためには必要な活動であった。

 大溝藩預かりとなって幽閉されてからは、しばらく著述活動のことを忘れていたが、外出を許可され、自然の景観を目の当たりにすると、またふつふつとその欲求が湧いてきた。

(これがわしにとって最後の著述になるだろう)

 重蔵は悲壮な思いを抱きながらこの作業に没入していった。


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