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一回り年上な皇帝陛下に溺愛結婚されました  作者: アルケミスト


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 ハネムーンを終えてディランへと戻った私を待ち受けていたのは、身体の変調とその驚くべき理由だった。


 ここはディラン帝国赤十字病院に設けられた特別病室。


 病室とは言うけれど、いわゆる真っ白な壁に天井、無機質なつくりの一般的な病室とはまるで異なっている。


 アンティークと思しき調度の数々にどこかで見たことのあるような油絵が飾られている。


 いわゆるホテルのスイートとなんら遜色のないラグジュアリーなつくりになっていて、とても病室とは思えない。


 天蓋つきのベッドに横たわったまま、私は主治医が差し出してくれたエコー写真に食い入るように見入っていた。


「これが赤ちゃん?

 ですか!?

 本当に!?」


 驚きのあまり、素の状態で王室お抱えの主治医に尋ね返してしまう。


 写真の中央には黒い豆粒みたいな影があるだけ。


 しかし、主治医は確信をもって私に頷いてみせると、ぎこちない日本語で祝ってくれた。


「ええ、おめでとうございます」


「っ!? あ、あ、ありがとうございますっ!」


 エコー写真を仕事柄くさるほど見てきている人がまさか見間違えるはずもない。


 ということは、本当の本当に妊娠したっていうこと!?


 生理が遅れて「もしや」と思いながらも、きっとハネムーンの疲れが出たのかもとさして深く考えていなかったのに。


 念のためにと受けてみた検診で妊娠が発覚するなんて。


「和、おめでとうっ!」


「ありがとう、友美!」


 傍で見守ってくれていた友美と手をとりあって喜び合う。


「まさかこんなに早く授かることができるなんて」


「……は?

 まさか?」


 フッと冷笑を浮かべると、友美はやれやれと首を力なく振ってみせて私に「ごちそうさま」とばかりに手を合わせてきた。


 そのぬるいまなざしからは、


「まさかじゃなくて当然でしょう!?

 あんだけ毎日毎日イチャついていれば!」


 という無言の突っ込みが聞こえてくるかのよう。


 ま、まあ……確かに。


 逆に遅いくらい?


 なんて。


 ああ、またノロけすぎだって友美に叱られてしまう。


 そのつもりはないのだけれど。


 それにしても、私がお母さんになる日が来るなんて。


 いまいち実感もなく、夢でも見ているのではないかと思えてならない。


 私はお腹に手を当てると、不思議な思いで静かに喜びを噛みしめる。


 彼と一緒に幸せな家族をつくっていくこと。


 その第一歩をようやく踏み出せた気がする


「あの、このこと陛下にはもう?」


 できるならば自分の口で報せたい。


 そんな思いを胸に主治医に恐るおそる尋ねてみると、友美が通訳してくれた。


 主治医はいたずらっぽい微笑みを浮かべて首を横に振る。


「まだ伝えてはいないって。

 じきに陛下もここにやってくるそうよ」


「ありがとうございます!」


 私がそう言って主治医の手を握り締めたそのときだった。


 突如、何の前触れもなくドアが勢いよく開いた。


「へ?」


 見れば、帽子をかぶった彼が、トレンチコートを羽織ったまま部屋の入口に仁王立ちになっていた。


 あの常に紳士的な振る舞いを崩さない彼が、まさか帽子もコートも脱がずノックもなしに部屋に乗り込んでくるなんて!?


 別な意味で夢でも見ているのでは?


 と、私は自分の目を疑う。


「ナゴミ、検診の結果はどうだったのかね?」


「……え、えっと、は、はい」


 凄みを帯びた質問にややたじろぎながらも、私は彼に伝えた。


「赤ちゃんができました」


「そうか」


 深く長いため息をつくと、彼は居住まいを正して私のほうへと歩いてきた。


 そして、私の手を両手で握り締める。


「よく頑張ってくれた。

 ナゴミ、私は君を誇りに思う」


「……い、いえ、まだ何も頑張っていないっていうか……頑張るのはこれからというか」


 早くも出産を終えたかのような彼の手放しの労いに私は苦笑する。


 こんな彼は初めて。


 一見、いつもと変わらず落ち着き払っているように見えるけれど、ものすごく喜んでくれている様子が伝わってくる。


 彼の背後でやはり苦笑しながらも穏やかなまなざしで主を見守るハロルドさんがいて、私と目が合うや否やいつもの仏頂面を取り繕ったのにも笑いを誘われる。


 部屋中に幸せな空気が満ち満ちていて心地いい。


 胸がいっぱいになって涙ぐみながら笑み崩れる私をまっすぐ見つめながら、彼がそっと後ろ手に持った何かを差し出してきた。


 ダリアの花束と、袋?


 ずっしりと重い袋の中身を確かめた私は唖然とする。


「えええ……こ、これって……まさか全部お、お守り!? ですか?

 こんなにたくさん」


 果たして、袋の中には朱色のお守りがぎっしり詰められていたのだ。


 パッと見、両手でも持ちきれないほどたくさん。


 その全てが安産祈願のお守りだった。


 いや伊勢神宮で彼が何やらこっそりと巫女さんから買っていたことには気づいていたけれど、てっきり他の人たちへのお土産だとばかり思っていた。


 何せ数が数だし。


 まさかこんなことをやらかしていようとは。


 あの日、安産祈願のお守りを買いにきた人たちに申し訳なく思う。


 たぶんさすがに買い占めてはいないだろうけれど在庫次第ではそれもありうる。


「伊勢神宮のご利益は身を以て思い知ったものでね」


「それにしてもさすがに多すぎじゃないですか?

 一つで十分かと」


 こんなにたくさん……きっと神様も困惑するに違いない。


「いや、子供の人数分あったほうがいいのではないかと思ったものでね」


「……え、ええええええ?」


 しれっと、とんでもないことを口にした彼に私は唖然とする。


 も、もしかして彼は私を猫か何かと勘違いしているのではないのだろうか?


 そんなにたくさん子供をつくろうとしていただなんて。


 いや、でもだからこそあんなに激しく?


 いやいや、出産適齢期というのもあるし、さすがにこんなにざっと見た感じ五十人以上も産めるはずがない。


「あ、あのさすがにそんなに多くは無理かと」


「志は高いほうがいいだろう?」


「……」


 いやいや、高すぎですから!


 っていうか、産むのはこっちだし……出産ってただでさえものすごく大変だって聞くし、彼だってそんなことは十分知っているはずなのに。


 それでもたくさん子供が欲しいという無邪気な願いに思わず笑いを誘われる。


 でも……まあ、彼が望むのであれば……できる限りその期待には応えたいとは思う。


 とはいえ、さすがに五十人は無理だけど。


「それが我が子の写真かね?」


「え?

 あ、はい」


 彼に促されてエコー写真を手渡した。


 我が子と言われてもまだちょっとピンとこない。


 反面、彼は満ち足りた表情でいとおしげに写真に見入る。


「ああ、なるほど。

 君に似てとても愛らしい子だ」


「え!? っちょ……えええっ!?」


 私にはどこからどう見てもただの黒い豆粒にしか見えないし、これが赤ちゃんって言われても正直疑問に思うくらいなのに……一体彼の目にはどう映っているのだろう?


 もしかしたら、かわいらしい赤ちゃんの幻でも見えているのかもしれない。


 エコー写真を前に早くも親馬鹿全開な彼に戦々恐々となる。


 生まれる前からこんな風じゃつくづく先が思いやられる。


 まだ男か女かすら分からないはずなのに……彼の中では生まれてくるのはすでに女の子と決まっているようだし。


 パッと見た感じはいつもと変わらないクールなポーカーフェイス。


 非の打ち所のない紳士だというのに、その発言とのギャップにつくづく驚かされる。


 でも、だからこそいい……と思ってしまう私のほうがむしろどうしようもないのかも。


 ちらりと友美を見ると、やはり辟易した様子で肩を竦め、主治医とハロルドさんを促して部屋の外へと出ていった。


 残された私は彼と二人きり。


 友美の配慮に感謝する。


 彼は友美の座っていた椅子に腰かけると、改めてしみじみと私のお腹に触れてきた。


 お世辞にも褒められたお腹ではないのであまり触られたくないけれど、今回は特別なのだからと抵抗しない。


「……今、動いたような気がするが」


「気のせいですから。

 胎動を感じられるのってもっと先なはずです」


「……そうか。

 気のせいか」


 残念そうにこぼす彼がどうしようもなくいとおしく思えて、私は彼の頬へと触れた。


 すると、私のその手に彼も手を重ねてくる。


「本当に楽しみでならない。

 元気な子を産んでほしい」


「はい、頑張ります」


 ずっと彼にいろんなことをしてもらってばかりでお返し一つできていないと残念に思っていたけれど、ようやく少しだけ報いることができたような気がする。


 こんなにも彼が喜んでくれるなんて思いもよらなかったけれど。


「しばらくの間は私も我慢しなければな」


「え?

 あ……そ、そうですね……」


 彼の言葉の意味するところに気づいて、私はぎこちなく視線をさまよわせながら頷いた。


 それこそ毎日のように愛を確かめ合っていて、少しは休みたいと思うくらいだったのに、いざ我慢しなければならないとなると、それはそれで不安になる。


 複雑な思いが顔に出ていたのか、彼が不敵な微笑みを浮かべると私の耳元に囁いてきた。


「まあ、いくらでもやりようはある。

 そんなに心配しなくてもいい」


「っ!?

 し、心配なんて……別に……」


「そうかね?」


 早くもサドっ気が滲み出た彼の流し目に心臓が跳ねあがる。


 余裕めいたその口ぶりに動揺を誘われる。


 一体どんなことをされてしまうのか、想像しただけで顔が熱く火照る。


「私としては今から試してみてもいいのだが?」


「い、いえ……さすがに……皆、外で待ってますし……」


「ならば今夜、覚悟しておきたまえ」


「ううぅ……は、はい」


 危険な予感にぞくぞくしながらも、彼と甘く見つめ合ってキスを交わす。


 愛し愛され、共に未来を築き上げていける幸せをしみじみと噛みしめながら……。





   終


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