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一回り年上な皇帝陛下に溺愛結婚されました  作者: アルケミスト


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 しばらくの沈黙の後、彼は窓の外へと視線を向けたまま私に尋ね返してきた。


「他にも気になっていることはあるのですか?」


「え?

 あ……は、はい……」


 微妙に話の矛先を逸らされた気がしなくもないけれど、この際気になることは全て彼に打ち明けてみたほうがいいのかもしれない。


 今ならば聞いてもらえそうな気がして、私は言葉を続ける。


「どうもご家族の話を避けたがっていらっしゃるような気がして。

 それは前々から気にはなっていました。

 それが今回のことに関係あるかまでは分かりませんけれど……」


 空気がさらに険しいものへと転じた気がして、二つの問題がけして無関係ではないようだと肌で感じる。


「……貴女はもっとおっとりとしたタイプだと思っていましたが。

 ミス・ユミとは違って」


「いえ、仰るとおりだと思いますが……ただずっと傍にいれば……さすがに……」


「なるほど、確かに」


「私はその理由を知りません。

 でも、結婚した以上は知っておいたほうがいいと思うんです。

 これから一緒に家族をつくっていくならなおさら……」


 ハロルドさんは、ハッとすると私のほうへと向き直って苦笑してみせた。


「……確かに貴女にしては珍しく一理ありますね」


「は、はあ……」


 一言余計と言うか何と言いか。


 まあ私も他人のことをとやかく言えないけれど。


 わずかに空気が和らいだ気がして、私は内心胸を撫で下ろした。


「今日は陛下のご両親が事故で亡くなられた日なのです。

 毎年、陛下はこの日だけは公務を入れないことにしています」


「っ!?」


 脳裏にあの古ぼけた写真がよぎって胸が締め付けられる。


 ご両親の命日を前に、あの写真を眺めながら、彼は一体どんな思いを馳せていたのだろう?


 それを考えるだけで涙で視界が滲む。


 駄目だ……彼のこととなると涙腺がいつも以上に緩んでしまう。


 私は涙を乾かすために斜め上を向くと、震えてしまう声でハロルドさんに尋ねた。


「……どんな……方だったんでしょうか?」


「お二人とも生涯にわたり利他の精神を貫かれ、争いを避け和を重んじるためならばいかなる犠牲もいとわない方々でした」


 利他の精神というのは、確か自分よりも他を優先することだったはず。


 そういえば、と、私は彼と出会ったときのこと、折に触れて彼が口にする言葉を思い出していた。


 つい私が自分のことを顧みずに他の人のために動いてしまうこと。


 面倒な争いごとを避けるために自分から折れること。


 損な性格だとばかり思っていたけれど、もしかしたら彼はそんな私とご両親の姿をどこか重ねていたのかもしれない。


 もちろん私なんかが彼の両親に及ぶべくもないけれど、だからこそよりいっそう彼のご両親への秘めた思いの強さを感じずにはいられない。


 どんな些細なことからも、ご両親を思わずにはいられないのだとすれば。


「当時、問題となっていた難民の受け入れにも積極的に取り組んでいらっしゃいました。

 陛下はそんなご両親を誰よりも誇りに思い尊敬していらっしゃいました」


 ハロルドさんの言葉は過去形だけれど、今もなおきっと彼はご両親を大切に思い、尊敬しているに違いないと、言葉の端々から伝わってくる。


「しかし、善意には善意が返ってくるというものではない。

 無論それが理想ではありますが、現実は理想とは程遠いものですから」


「……」


 意味深な謎かけのような言葉がひっかかるが、ハロルドさんはそれ以上は語ろうとする素振りもなく、それ以上こちらから尋ねるのは憚られる目には見えない壁があった。


 そう思って話を切り上げることにした。


「教えていただいてありがとうございます」


「いえ……」


「私本当に何も知らなくて。

 恥ずかしいです。

 今日がご両親の命日だったなんて。

 そんなこと一言も」


「そういうお方ですから」


「……はい」


 初めてハロルドさんと思いが重なった気がした。


 そう、彼はいつだって自分に厳しく、ストイックなまでに弱みを他人に晒そうとはしない。


 深い悲しみも自分の内側にとどめたまま。


 でも、本当にそれでいいのだろうか?


 行き場を失った感情はそのままどこへも行けずにいっまでも彼を苦しめるのでは?


(いつかその思いを少しでも受け止めることができたなら)


 私にもできることをようやく見つけることができたような気がする。


 もちろん、そう簡単なことではないだろうけれど。


 現にご両親の命日のことも彼は私には教えてくれなかった。


(急がずにゆっくり少しずつ)


 そう自分に言い聞かせながらも、胸の奥にできたしこりはなかなか消えそうになかった。


 ようやく彼を近くに感じることができてきたような気がしていたのに、再び遠くへと突き放されたような気がして。


 途方に暮れそうになる自分をなんとか奮い立たせるだけで精一杯だった。


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