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結婚式を終えて、一ヶ月後に控えているハネムーンを前に怒涛の公務に追われることとなった私たち。
ある程度覚悟はしていたけれど、まさかこんなにも忙しくなるとは思いもよらなかった。
婚約時代も忙しいとは思っていたけれど、それがぬるいとすら思えるほど。
それこそ朝から夜まで予定がびっちり。
あちこちでお祝いされまくり。
まあ、それもこれも一重にハネムーンのために詰められる予定は全て詰めておこうという趣旨のものなので仕方ないと言えば仕方ない。
鼻先にニンジンならぬハネムーンをぶら下げた状態で、なんとか大きなへマもなくだましだまし役目をこなしている。
でも、私一人ではまずこうはいかなかっただろう。
全ては彼と新しく私を支えてくれることになった強力な味方のおかげに違いない。
「本日のスケジュールはこちらにまとめてあります」
身支度を整えた私へと、新しい世話役兼秘書が分厚い資料を差し出してきた。
ショートカットにキリリとしたノンフレームの眼鏡。
身体にフィットしたパンツスーツ姿が抜群にキマっている彼女はいかにも只者ではないキレ者といった風格を新入りでありながらすでに漂わせていて、早くも周囲から一目置かれている。
何せ日本人でありながら英語力はTOEIC八百点。
ディラン語もすでに日常会話は差し支えないほど習得している。
同じ人間とはとても思えない。
改めて私は彼女、友美の凄さを実感していた。
そう、彼女の新しい就職先とは……なんと私の世話役だったのだ。
どうりで世話役の話をしてきた彼の目がどこかいたずらっぽい光を宿していたはずだ。
しかし、それにすぐに気づけず、後になってから気づかされる私も相変わらず鈍い。
そんなこんなで、結婚式の後、そのまま友美もディランに滞在することになって、早半月が経過しようとしていた。
それにしても……友美の丁寧語はいまだに慣れないというか気持ち悪い。
「あの……友美、ずっと気になってたんだけど、無理に丁寧語使わなくてもいいから」
「あ、やっぱりそう?
それなら早く言ってよね。
じゃ、二人きりのときはいつもどおりやらせてもらうから」
サバサバとした口調で言うと、友美は時間が惜しいとばかりに資料の説明に入る。
「一応大事だと思えることは全てまとめておいたけれど、付箋が張ってあるページは特に重要な箇所だけをまとめてあるので直前にも必ずもう一度チェックしておいてちょうだい。
他は流し読みくらいでいいから」
「あ……ありがとう……」
「和は昔からテストも範囲をまんべんなく勉強して、結局全部終わらなくて赤点をとりまくりだったでしょう?
それでは駄目よ。
重要なところにポイントを絞って覚えないと。
こういうのは要領よくやらないと」
「……はい」
まったくもって友美の言うとおり。
さすがは高校時代からの親友。
私のことをよく見てるなあって感心する。
友美はさほど勉強もしていないのに常に上位で、一方の私は勉強に時間をかけているわりにはビリから数えたほうが早かった。
今思えば、優先順位という概念が欠けていたように思う。
とにかく目の前のことだけに必死にしがみつくタイプで物事を俯瞰して見れていないというか。
社会人になってから仕事の要領の悪さもきっとそれによるところが多い。
「本当に友美がいてくれてよかった」
「でしょう?」
フフンッと得意そうに笑ってみせる友美に私も笑いを誘われる。
「ハロルドさんにお礼を言わないと」
「っ!?
ちょ……ちょっと……なんで急に彼の話が出てくるわけ!?」
「ええ?」
いつもの友美らしくない慌てように私のほうが驚かされる。
「だってハロルドさんが友美をスカウトしたんでしょう?
陛下がハロルドさんに友美の就職先を探させるって言っていたし……」
「あ、ああ……そ、そう……まあ、そう、ね……」
これは怪しい。
こんなにキョドる友美なんてもしかしたら初めてかもしれない。
これはもしかしてもしかするとか?
さらなる再就職先が見つかる兆し!?
私の疑惑の視線から逃れるように友美は咳払いをすると、腕時計をチェックして、
「さあ、今日の最初の予定は視察でしょ!
さっさと行く!」
と私の背中をぐいぐい押してきた。
やっぱりものすごく怪しい。
とりあえずハネムーンや何やらひと段落ついたら、一度女子トークでもかましてみよう。
ひそかな楽しみが増えた私は、資料に貼られた無数のアルパカの付箋を眺めながら、今日もまた一日頑張れそうな気がしてきた。
我ながら単純。
でも、単純じゃなくちゃ、そもそもこんな現在はありえないわけで。
今まで嫌いだった自分をほんの少しだけ好きになれたような気がした。




