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一回り年上な皇帝陛下に溺愛結婚されました  作者: アルケミスト


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 式典の後は大聖堂から宮殿にかけてのパレード。


 その後はもろもろの会食。


 その間、私はずっとウェディングドレスのまま通した。


 もちろん長いヴェールは外した状態でだけれど。


 繊細なレースをふんだんに使い、大小さまざまなパールを贅沢に縫い付け、豪奢な刺繍がいたるところに施された純白のドレスは……実際に着てみると鎧のように重かった。


 いや、重いことは試着などで事前に分かっていたことではあるけれど、実際に動いてみることはなかったため、まさかこんなにも体力を情け容赦なく奪っていくものだとは知らなかったというほうが正しい。


 恐るべしウェディングドレス。


 本当は式典が終わった後はもっとシンプルなドレスに着替えてもよかったのだけど、 せっかくの晴れ舞台だし、綺麗なウェディングドレスを少しでも長く着ていたいという一心でウェディングドレスで通すことにしたのだけれど正直なところ大失敗だった。


 ただでさえハードなスケジュールのハードルをさらにあげてしまった私。


 それでも、彼に恥をかかせてはならない一心で、なんとか全ての予定を危なっかしくもなんとかやり終えることができた。


 残すところあと一つまで……。


(……別に……初めてじゃないわけだし、今更緊張しなくても……)


 そう自分に何度も言い聞かせるも、せわしない心音は全身に響き渡るかのようで一向に収まる気配がない。


 部屋に戻ってきた私は、ウェディングドレスを着たまま、彼がシャワーを浴び終えるのをまんじりと待っていた。


 一刻も早くドレスから解放されたかったけれど、せっかくここまで頑張ったんだから最後まで頑張りとおすべきでは!?


 なんていう謎の根性が芽生えてしまって、いまだに着替えられずにいる。


 結婚式典なんかは、全ての手順があらかじめ細かく決められていたし、何度もリハーサルを繰り返しての本番だったけれど……初夜はそうはいかない。


 他のことで手一杯で完全に失念していた。


 こういう場合、どう振る舞うべきかまったく分からない。


(……ベッドで待っておいたほうがいいのかしら?

 でも、それもなんだか待ちかねているって感じがして微妙な気も……もっと花嫁の恥じらいってものがないと……)


 いろいろと思い悩みながら、部屋をうろうろと落ち着かなく歩き回る。


 もうじき、彼がシャワーを浴び終えて出てきてしまう。


 何かこういいアイディアはないかと必死になって考え込む。


 と、そのときだった。


(そうだ!

 これしかないっ!)


 脳裏によぎるのは眠れる森の美女の一場面。


(寝たフリをするっていうのが一番自然かもっ!

 これならベッドで待ち構えていたって感じはでないし……)


 優しくキスで起こされてそのまま結ばれるとか、なんてロマンチックなんだろう!


 これぞ名案とばかりに、私は早速ベッドに横たわって胸の前で手を組んでみる。


 花瓶から薔薇の花を一輪とってきて、というのはさすがにやりすぎ感があるかな?


 なんてことを考えながら目を閉じて彼を待つ。


 だけど、だんだんとシャワーの音が心地よい子守唄に聞こえてきて……しまったと思う。


(だ、駄目……これじゃ寝たフリじゃなくて……本当に寝てしまいそう……)


 起きなくてはと思うのに時すでに遅し。


 ただでさえ重かったまぶたが縫い付けられたかのように目を開くことができなくなってしまう。


 よくよく考えてみれば、今まで生きてきた中で一番くたびれ果てている状態でベッドに横になるとか。


 自殺行為にも程がある。


 つくづく自分のマヌケさを呪いながらも、異様なまでの睡魔にもはや抗うことはできなかった。





 彼がいつも身に着けている香水の香りとあたたかさに包み込まれて、至福感に酔いしれながら、いつまでもこうしていられたらと願ってしまう。


 子供のような願いだなと思いながらもそう願わずにはいられない。


 今がきっと一番幸せなんだろうと思う。


 これ以上の幸せはきっとない。


 そう思うや否や、不意に心臓がぎしりと軋んだ。


(……もし……失ってしまったら……)


 なぜいきなりこんな考えが頭をよぎったのだろう?


 でも、その恐ろしい気づきは私の胸を鷲掴みにして放そうとしない。


 何の根拠もないにもかかわらず、息苦しさを覚えるほどに胸が痛み、涙が滲み出てきてしまう。


(いや……失いたくない……)


 もしかしたら失うかもしれないと想像しただけで泣けてきてしまうなんて。


 いつの間にここまで彼を想うようになっていたのだろう。


 今更のように気づかされた気がして愕然となる。


 恋愛にもさほど興味もなくて、もっと淡泊な人間だとばかり思っていたのに。


「……」


 急に心細くなって彼の手を握り締めた。


 が、その瞬間、その手がガラスのように砕け散ってしまう。


「っ!?」


 何が起きたのか考えが追い付いてこなくて茫然自失となる。


 その間も手から細かい砂は絶え間なく零れ落ちていってしまう。


 なぜ?


 どうして!?


 憤りが胸を焦がして焼き尽くしていく。


 一体誰に?


 何に?


 行き場を失った怒りを持て余しながら、私は一つの答えらしきものへとたどり着く。


(ああ、きっと幸せがこんなにも脆く儚いものだったって知らなかったから)


 まるで手の平を返されたような思いに歯噛みする。


 幸せは裏切る。


 誰かの嘲笑うような乾いた声をはるか遠くに聞いた気がした。


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