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ディラン帝国の首都アークリンド。
その目抜き通りの一番奥に聳え立つアークリンド大聖堂にて私と陛下の結婚式典は厳かにおこなわれた。
介添え役を務めてくれるのは、私たっての希望で友美。
極限の緊張のせいで何度も式の直前までいっそ逃げ出してしまおうかという衝動をなんとか抑えることができたのは一重に彼女のおかげに違いない。
私が煮詰まってくるタイミングを見計らっては、最近ハマっている動物のユルフワ動画をスマホで見せてくれたり、他愛もない昔話をしたりと、絶妙なタイミングでガス抜きをしてくれた。
もう絶対無理!
自分には務まるはずがないって、泣きついたときにはスポ根モノの漫画をパロって無駄に暑苦しく叱咤激励してくれた。
本当に友美には何から何までお世話になりっぱなしだ。
大司教の前で結婚の誓いを陛下と交わした私は、いよいよ指輪の交換をすることになって、背後で控えてくれていた友美からピローにのせた指輪を受け取った。
本当に、本当に今までありがとう。
そんな思いを込めて、じっと見つめると、彼女はニッと口端をあげて片目を瞑ってくれた。
「いいってこと!」という声が聞こえた気がする。
彼女のさらに向こう側には、最前列に陣どっているお母さんやお父さん、弟たちの姿もあって……なんだか不覚にも涙が滲み出てきて慌てて目を逸らした。
泣くのはまだ早い。
ここ一番の大切な瞬間につけまつげがとれかかったり、メイクがよれたりとかだけは絶対に避けねば。
そういう写真がでかでかと新聞の一面を飾ったりネットで世界中に拡散されたりすることを考えただけで死ねる。
私は感傷的になってしまう気持ちを必死の思いで奮い立たせると、ドレスの裾を踏まないように注意しながら壇上に戻っていき陛下のほうを向いた。
すると、彼が私の顔にかかったヴェールを後ろへとからげていった。
ああ、なんだか夢でも見ているような不思議な感じ。
現実感がまるでない。
真っ白なフロックコートに身を包んだ彼の姿はあまりにもまぶしすぎて私は目を細めてしばたたかせる。
いつもと変わらないどこまでもまっすぐな強いまなざし。
揺るぎない彼の信念が私の心にまで伝わってきて緊張が紛れていく。
ついさっきまであれだけ緊張していたのが噓みたいだ。
(彼となら……きっと何があっても一緒に乗り越えていける。
今までと同じようにこれからだって)
口端をあげて彼に微笑みかけると、彼もまた微笑み返してくれた。
そして、私の左手をいつも以上に恭しくとると、大きな涙型のレッドダイヤモンドを埋め込んだ結婚指輪をはめていく。
ダイヤモンドの中でも特に希少な宝石だというのに十カラット以上はゆうにある。
なんでもその値段は億を超えるとか……全部友美の受け売りだけど。
なんておそろしい結婚指輪だろう。
こんな大切なものをドジな私に与えるなんて本当にいろんな意味でディランは大丈夫なのだろうか?
代々王家に受け継がれてきた宝石。
その重みに歴史を感じ、改めて気持ちが引き締まっていく。
そうして、互いに結婚指輪をつけ合ってから、彼は私の顔を上向かせてゆっくりと唇を近づけてきた。
二人きりではなく、大勢の人々に見守られながらの誓いのキス。
家族や友美に見られてしまうことを考えるだけで恥ずかしくてならない。
キスに応じるべく静かに閉じたまぶたも落ち着かなく痙攣してしまう。
ややあって、柔らかな彼の唇を感じて……。
気が付けば閉じたままの目から熱い涙が一筋流れ落ちていった。
ああ、あれだけ泣くまいと心に決めていたはずなのに。
ようやくここまでたどり着けたのだという思いと彼へのいとおしさがないまぜになって怒涛のように押し寄せてくる。
困り果てたように私が薄く目を開くと、彼はそっと涙を唇で拭ってくれた。
感極まってしまった私を宥めるかのように。
不思議とたちまち心が凪いでいく。
彼が私の手を腕にかけさせて、大聖堂の中央に敷かれた赤い絨毯の上をゆっくりと入口に向けてエスコートしていった。
アカペラ歌手が「主よ人の望みの喜びよ」を朗々と歌いあげていき、その歌声に聖歌隊が加わって美しいハーモニーを奏でる中……。
大聖堂のステンドグラスから斜めに差し込んでくる青みがかった光があまりにも厳かで幻想的で……。
バージンロードを彼と一緒に一歩ずつ踏みしめながら私はこう思った。
私はきっとこの光景を一生忘れないだろうと。




