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「ン……」
いつものベッドと感触が違う。
違和感を覚えながらゆっくりと目を開いていくと、すぐそこに彼の寝顔があった。
タキシードを着たままの無防備な寝顔……。
ああ、私だけでなく彼もシャワーを浴びるまでもなく寝てしまったんだと気づく。
そういえば彼の寝顔を見るのってもしかしたら初めてかもしれない。
いつもは私のほうが見られてばかりで。
少しうれしくなって私は彼の頰を撫でてみる。
それだけなのに、なんだかとても満たされた気持ちになる。
と、そのときだった。
不意にスマホが振動する音が、ドレッサーの上に置いたクラッチバッグの中から聞こえてきた。
彼を起こさないように細心の注意を払って、ベッドの中から抜け出すと、忍び足でドレッサーへと向かってスマホをチェックする。
「……友美からだ」
『結婚式の介添え役の件、了解!
高くつくからね!
覚悟しておくこと』
いかにも友美らしいちょっと捻くれた感じのショートメッセージに笑いを誘われる。
そのメッセージに続いて、スタンプが届いた。
キモかわいい(?)アルパカが後ろを向いてニヤリと悪代官のような笑いを浮かべているイラスト。
「っ!?」
な、なんかこれ知っているような知っていないような?
奇妙な既視感に首を傾げて、そして、ハロルドさんの不思議な質問にようやく思い至るや否や、思わず「えええええっ!?」と、素っ頓狂な声をあげてしまった。
彼を起こしてしまうと、慌てて口を塞ぐも時すでに遅し。
彼は小さく呻くと顔をしかめて薄く目を開いた。
「す、すみません起こしてしまって」
謝るも返事はない。
無言のまま彼は私を手招きする。
慌ててベッドに戻ると、手を引っ張られて再びベッドに引きずり込まれてしまった。
そして、彼は私を抱き枕よろしく抱きしめると、すぐにまた規則正しい寝息をたて始めたのだ。
も、もしかして、今の寝ぼけていた!?
以外すぎる彼の姿に内心悶えくるいながら、私は飽きることなく間近で彼の寝顔を見つめて独占していた。
彼の体温であたたかなシーツが心地いい。
たまにはこういうのも悪くない。




