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「君は今のままで十分素敵だ」
「そんなことないです!
ただでさえ顔のつくりも地味ですし、いえ、まあ体形もメリハリがあるわけでもなくてわりと残念な感じなんですけど……それでも何もしないよりはマシだと思うんです」
「女心というのは何やら難しいもののようだ」
「ええ、本当に……」
今夜の晩餐会で美女に囲まれていた陛下と、そんな彼につい嫉妬してしまった自分を思い出して自己嫌悪に陥る。
本当に自分で言うのもなんだけど女って面倒くさい。
それはもう学生時代からことあるごとに思ってきたことだけれど一生自分について回る問題なのだから、うまく付き合っていく他ない。
どちらかと言えば君も友美も女子の中ではサバサバしているほうだし、まだマシなほうだとは思うけれど。
「しかし、今日はもう休みなさい。
やりすぎもよくない。
疲れ果てているときくらいは自分を敢えて甘やかすことも大切だ」
「……そう……でしょうか?」
「私が多忙なのは君もよく分かっているだろう?
その私が言うのだから間違いない」
そう言うと、彼はタキシードの上着を脱いで椅子の背にかけると、ベッドに横たわってから私のほうへと手を伸ばしてきた。
「さあ、来なさい」
「っ!?」
こんな風に少し強い口調で言われるだけでも胸が激しくざわついてしまう。
それはもう条件反射のようなものだった。
「……は……はい」
私は上ずった声で返事をすると、のろのろとした足取りで彼のほうへと歩いていって彼の手をとった。
すると、手を掴まれてベッドに一気に引きずり込まれる。
「きゃっ!?
へ、陛下っ!?」
彼はベッドの上であおむけになると、私を自身の身体の上へとのせた。
彼の胸の上にうつ伏せになった私は慌てふためく。
「お、降ろしてくださいっ!
お、重いですし!」
「いや、このままでいい」
私を宥めるように背中を優しく撫でてくる。
大きくてあたたかな彼の手を背中に感じながら、そのあまりもの心地よさに長いため息をつく。
どうしてこんなにも彼は気持ちいいのだろう。
こうしてただ一緒に引っ付くだけでも心身がゆるゆると解けていく。
たちまち懐柔されてしまった私は、彼の逞しい胸板に頭を預けてそっと目を閉じる。
規則正しい心臓の鼓動が伝わってきて、それはまるで子守唄のように私を深い眠りへと誘っていく。
負けては駄目だと、必死に睡魔と戦う、早くもまぶたが重くなってきて一瞬意識が飛びそうになる。
と、そのときだった。
「……私にはしないのかね?」
「え?」
不意に彼が眩いて、私は目をこすりながら彼を見上げる。
「な、何をですか?」
「……君が飼い猫にしていたことだ」
「っ? え? セーラに?
って、もしかして、お腹をモフモフってあれのことだったりしますか?」
「ああ……」
セーラのお腹に顔をうずめてモフモフって顔を左右に振る至福のひととき。
そういえば顔合わせで実家に戻ったときも、ついいつもの癖でモフってしまってたんだつけ。
しかし、まさかそんなことを彼が覚えていたなんて思いもよらなかった。
どこか憮然とした彼の表情に胸が甘く締め付けられる。
「も、もしかしてずっとモフモフ待ちだったりしましたか?」
「君があまりにも幸せそうだったものでね。
猫にできて私にできないことはない。
さあ、存分に甘えたまえ」
「っ!?」
どこまでも生真面目な彼の返事に、私は思わず吹き出してしまいそうになる。
まさか陛下ほどの紳士が、セーラに対抗心を燃やしていたなんて知らなかった。
そんな素振り今まで一つも見せなかったのに。
晩餐会で私が彼にしてしまった嫉妬なんてとるに足りないものに思えてくる。
さすがに私は陛下が動物たちと戯れていても嫉妬まではしないだろうし。
いや、実際のところは目の当たりにしてみないと分からないけれど。
「……それじゃお言葉に甘えて……」
私はそう言うと、いつもセーラにしていたように彼の胸に頭をこすりつけてみた。
セーラのようにふにゃふにゃかつふわふわではなくてむしろごつごつしているため、あまり気持ちいいとは言えないけれど、こうしてじゃれつく行為そのものにストレスが瞬く間に溶けていくのを感じる。
「ふふっ……ありがとうございます。
すっごく気持ちいいです」
「遠慮せずいつでも甘えなさい」
「はい。
陛下もいつでも甘えてくださいね」
「ああ、そうさせてもらおう」
どこまでも甘い彼とのやりとりに私は満ち足りた思いで幸せを噛みしめる。
こんな風に互い甘え甘えられる相手がいるということは、もしかしたら何よりも幸せなことかもしれない。
愛っていうのは本当にいろんな形や味があるのだなあと改めて思う。
たまにはこうやって何も知らない子供のように無邪気にじゃれ合って眠りにつくのもいいかも。
もちろん、毎晩のように彼に渇望されるのも悪くはないけれど……。
「……なんだか気持ちよすぎて……今日はこのまま……寝てしまってもいいですか?」
「ああ、構わない。
シャワーは明日にしなさい」
彼の声を遠くに聞きながら、心地よい眠りの底へと私は沈んでいった。




