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今日はさすがに……疲れ果てた。
国内の公務ならまだしも国外の公務は初めてで、まさかそれがこんなにも疲れるものだったなんて。
早朝からの移動に加えて、式典前、中、後と……絶対に失敗できない場面が続いて、もはや気力も体力も限界だつた。
とどめに、あまりにも豪華すぎるフルコース。
きっと式典のためにはるばるパリスまで足を連んだ参加者を全力でもてなそうとしてのチョイスだったのだろうけれど、ただでさえフルコースって重いのに、食材のチョイスがフォアグラだのキャビアだのこれまた重いものにバターをたっぷり使った濃厚なソースがかけられたりしていて……あまりにも重すぎた。
もちろん、ご年配の方や女性などには少な目の量だったりという配慮は見られたのだけど、それでもコースのメインに入る頃にはすでにお腹がいっぱいだつた。
ディランに来て彼と一緒にレストランなどにも足を運ぶようになって知ったことだけれど、アジア人は欧米人に比べると基本小柄で食事の量もだいぶ少ない。
なので、オーダーの前に量を少な目にお願いしているのだけれど……今回は遠慮が先だったのと食事よりも両隣のゲストとの会話のことぱかり考えていたので盲点だった。
驚いたのは、私よりもはるかに長身ではあるだろうけれど、小柄なモデルと女優のお二人がフルコースを涼しい顔で完食していたこと。
あんなに食べているのに、どうやったらあのスタイルを維持できるのだろう?
その秘訣を彼女たちに尋ねることができたらと、両隣のゲストから日本食について尋ねられ、たどたどしい英語で説明するのに必死になりながらどれだけ思ったことか。
なんだかもう何から何まで自分とは規格外の人たちに囲まれて、ことあるごとにへこんでしまう。
ディラン語もまだまだ下手だし、英語だってまだまだだし。
彼と連れ立って迎賓館の客用寝室に戻ってきた私は、このままベッドに倒れ込んで泥のように寝てしまいたい欲望と必死に戦いながらも、ダイエットのために残る力をふりしぼる。
とりあえず着替えなければとクローゼットの前に立つも、一瞬意識が飛んでいたようで頭が舟をこいでしまってハッとなる。
「随分と疲れているようだが、大丈夫かね?」
「だ、大丈夫……です……」
心配をかけたくなくて強がってみせてはみるものの、こんなことで彼の目をごまかせるとは到底思えない。
「シャワーを浴び終えたら、今夜はゆっくり休みなさい。
私が寝かしつけてあげよう」
「え……陛下が……ですか?」
「なんだね?
随分と警戒しているようだが」
「だって、陛下の寝かしつけはちょっと違うと思うんです」
いつもの彼の「寝かしつけ」を思うだけで、顔が熱くなる。
確かに、その後はとてもよく眠れるのだけれど、その前がちょっと刺激が強すぎるというかなんというか。
すると、私の心の中を見抜いたかのように彼は言葉を続けた。
「安心しなさい。
今夜の寝かしつけは本物の寝かしつけだ」
「っ!?
って、それじゃいつもの寝かしつけは偽物だったっていうことじゃ……」
私が突っ込みを入れると、彼は目を細めたまま肩を竦めてみせるだけ。
いたずらっぽいその素振りに胸が高鳴る。
いや、わ、分かってはいたけれど……まったくもう仕方ないんだから。
いたずら好きな男子に困らされたような心地がして、彼を目で咎めるもつい表情が緩んでしまう。
「なんならシャワーを浴びるのも手伝ってあげよう」
「い、いえ!
それはもう本当に結構ですっ!」
からかいを含めた彼の言葉を即座に固辞する。
本物の寝つかせとやらも疑わしいのに、シャワーの手伝いだなんてそれこそ余計に疑わしい。
それだけで済むはずがない。
「今日は先に君が浴びたまえ。
私は少々仕事が残っている。
君がシャワーを浴びている間に済ませてから寝つかせてあげよう」
「あ……でも……もう少し後にします。
少し身体を動かしておかないと」
「今からかね?」
「はい、少しだけですけど……その……ダイエット中ですし……」
「ダイエット?
そんなことをする必要があるのかね?」
「それはもうっ!
ウェディングドレスをできるだけ綺麗に着たいですし。
世の中の女性の多くは万年ダイエッターですし!」
「ふむ……」
私がつい拳を握り締めて力説してしまうと、彼は顎に手を当てたまま眉間に皺を寄せて理解できないという風に首を傾げてみせる。




