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一回り年上な皇帝陛下に溺愛結婚されました  作者: アルケミスト


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 翌日、ディランの友好国であるパリス国の建国記念の式典は滞りなく終わり、その後の晩餐会に私は陛下と一緒に出席していた。


 大広間に設けられたものすごく長い……おそらく軽く十メートルは超えるだろう長テーブルには真っ白なテーブルクロスがかけられ、机の上にはパリス国の紋章が描かれたそろえのお皿が大小ずらりと並べられ、曇り一つなく磨き抜かれたカトラリーが等間隔に寸分たがわず並べられている。


 パリスの王都の郊外に広がるブーランディーの森に建てられた迎賓館で華々しく開かれた晩餐会の参加者は、各国の皇帝、大統領など、これまたテレビのニュースなどでしか見たことのないようなそうそうたる顔ぶれだった。


 つい先日、アメリア国の大統領に就任したばかりのタロンプ氏も、隣の机の席でジョークを交えた毒舌を振るっていたりなんかして……思わず理由もなくサインをもらいたくなるミーハー心を抑え込むのに必死だった。


 別にかねてからのファンだったというワケではないけれど、就任前から何かと物議を醸し出していた有名人だけあってつい……。


 それにしても、そんな人にまで会えてしまう世界に足を踏み入れてしまったのだなと、改めて思い知らされたような気がしてならない。


 やはり婚約を正式なものとして世間に公表してからとその前とでは全然違う。


 来たる三ヶ月後の結婚式の準備を着々と進めつつ、こうして陛下と一緒にさまざまな公務に出席するようになってからというもの、彼の婚約者としての自覚が日増しに強まりつつあることに自分でもびっくりしている。


 つい先日、ハロルドさんに驚かれたばかりだけれど。


 もしかしたら、今まで生きてきた中でこれほどまでに真剣にかつ全力で取り組んだことって初めてかもしれない。


「陛下、ご婚約おめでとうございます」


「ありがとうございます」


「お初にお目にかかります。

 アドル皇太子。

 滝沢和と申します。

 本日はどうぞよろしくお願いいたします」


「こちらこそよろしくお願いします。

 マドモワゼルナゴミ」


「同じくお初にお目にかかります。

 ノア公爵。

 滝沢和と申します。

 本日はどうぞよろしくお願いいたします」


「お会いできて光栄です」


 ハロルドさんに教わったとおり、私は緊張に震える声で両隣の席に座るご両人にご挨拶をしてから、控えめに握手を交わして自分の席へと腰かけた。


 これは着席形式のパーティーにおける大切なマナーだそう。


 なぜなら、こういう場合、会の主催者(今回はパリス皇帝)が、参加者の席次を決める際に、例えば誰と誰とを隣にすれば、互いの今後にプラスになるか等、非常に細やかな気を配っているものだから、その配慮を最大限尊重して貴重な機会を最大限生かすのが招かれた側の務めだそう。


 席次にまさかそんな意味が込められているなんて考えたこともなかった。


 ちなみに、ハロルドさんの話によれば、今回の場合だとアドル皇太子の恋人は実は陛下の従妹だそうで……ノア公爵は陛下のご両親と懇意にされていた方だとか。


 事前に頭に入れておいて、ある程度の会話のシミュレーションは済ませてある。


 そうでもしないと、私のことだからうっかり口を滑らせてせっかくの貴重な機会を台無しににしてしまいかねない。


 そうすれば、ホスト側の顔だけでなく陛下の顔まで潰してしまうことになる。


 私の真向かいに座っている陛下は、私がひどく緊張しているのを見てとったようで、穏やかな微笑みを浮かべて目くばせをよこしてきた。


 今日の彼は、滑らかな光沢を放つ黒のタキシードに、胸にはダークグリーンのシルクチーフを差し色に用いている。


 いつものスーツ姿もいいけれど、タキシード姿も素敵で、何度見ても飽きない。


 つい見惚れてしまう私に彼は目で「リラックスするように」と語りかけてきた。


 って、気持ちはありがたいけれど……そんなのできるはずがない。


 もちろん、いつかは彼のように慣れていかなくてはならないのだろうけれど、何せ踏んだ場数が違いすぎる。


 当然、彼はさすがに堂々としたもので、いつもとまったく変わりない。


 それどころか、彼の両隣の美女たちと交互に談笑している様子はまるで映画のワンシーンのよう。


 それもそのはず、アドル皇太子の恋人兼彼の従妹とノア公爵の新しく迎えた奥様で、前者はモデル、後者は女優。


 それはもう綺麗の次元がそんじょそこらとは違うのも当然っていうか……やっぱり……彼の相手が本当に私なんかでいいんだろうか?


 彼女たちと比べてしまうこと自体がおこがましすぎると頭では分かっていても……やはりこうして目の前で見せつけられると気になってしまう。


 もちろん、彼の愛を疑うわけではないけれど、やっぱり周囲から分不相応な婚約だと思われているんじゃないかって気にしてしまう。


 彼の言う、他人にどう思われるか気にしすぎないほうがいいというのは、きっとこういうことを言うんだろうな。


 いちいち気にしていたら神経がすり減ってしまう。


 現にすり減らしている私が言うのだから問違いない。


 私が地味にへこんでいると、コースの配膳が始まり最初の前菜が運ばれてきた。


 前菜であるにもかかわらず、早くもキャビアを贅沢にちりばめたエッグタルトなんて。


 おいしいに決まっているけれど……ちょっと躊躇ってしまう。


 というのも、三ケ月後の結婚式に向けて、せめてものダイエツトに挑戦中。


 にもかかわらず、こういった会食やパーティーでは当然のことながらかなりボリューミーなごちそうばかり。


 しかも今回はフルコース。


 モデルさんや女優さんってどうやったらあんなナイスバディを維持できるのか、不思議でならない。


 きっとものすごくプ口意識が高いのだろう。


 と、つい彼の両隣に座るモデル&女優の一挙一動をつぶさに観察してしまう。


 だけど、 二人は罪悪感のかけらも浮かべない優美な微笑みを浮かべて、美しい所作でエッグタルトを口に運んでいった。


 あれだ、きっと。


 食べても太らない体質に違いない。


 全女子の夢!


 いいなあ。


 ずっと緊張しっぱなしでただでさえくたびれているにもかかわらず、私は晩餐会が終わったら寝る前にトレーナーに教わった筋トレと有酸素運動に励むしかないことを覚悟しつつ、渋々前菜を口に運んでいく。


 ダイエットのためには食べたくないけれど、まさか残すわけにはいかないし。


 と、相反する悩みを戦わせながら。


 しかし、一口食べるや否や、そんな迷いが一瞬のうちに吹き飛んでしまう。


(やっぱり!

 想像どおりものすっごくおいしい!)


 キャビアのプチプチ感とタルトの濃厚な味に、ついすました笑顔の仮面が剝げて素でニヤけてしまう。


 と、不意に正面から視線を感じて顔をあげると、柔和な表情をした彼が食事の手を止めて私を見つめているのに気が付く。


 そう、まるでダメな我が子かペットをそっと見守るようなまなざしで。


「……っ」


 私は頬を染めると膝上に広げたナプキンで口元を押さえて、努めて上品な笑顔をつくり直した。


 なかなか素の自分を律するのは難しいもので、彼のストイックなまでの自制心をうらやましく思いながら。


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