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一回り年上な皇帝陛下に溺愛結婚されました  作者: アルケミスト


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「すみません。

 本当に……すみません……うちの家族、本当にいつもあんなでとっちらかっていて……」


 結局、予定どおりすき焼きは決行されてしまった。


 腹をすかせたケダモノたち、もとい愚弟共から彼のために肉を奪い続けて……結局、私自身は何を食べたのかすら覚えていない。


 迎賓館での昼食会とは天地の差で、申し訳ないにも程がある。


 まあそもそも比べるほうがおこがましいと言えばそのとおりなのだけれど。


 最初は緊張していたお父さんとお母さんも、お酒が入るに従っていつもの調子を取り戻しちゃって、私が小さかった頃の黒歴史を披露しまくるわ、途中で寝ちゃうわで、無礼講にも程がありすぎだった。


 カオスな夕食を終えて、私は居間から逃げるように彼を二階の自分の部屋へと避難させて今に至る。


 六畳一間の狭い部屋は昔とまったく変わっていない。


 物置にしてくれても構わないって言っておいたのに、私が使っていたときのまま。


 高校の頃、一時かぶれていた俳優の写真も貼られたままで、慌てて剝がしながら、私はひたすら彼に謝り倒していた。


「何を謝る必要があるのかね?」


「いえ、家族が本当にお見苦しい真似を……」


「見苦しい?

 素敵な団らんだったと思うがね?」


「……ええええ?」


「日本のおもてなしの心はいいものだ」


(いやっ!

 あんなのが日本のおもてなしじゃけしてないですからっ!)


 感慨深そうにしみじみと眩く彼に、私は心の中で激しく突っ込みを入れる。


 あんなコントみたいな日常が日本のご家庭のスタンダードと勘違いされては、あまりにも全国民に申し訳なさすぎる。


「君のご家族はみな仲がよいのだな」


「そうなんでしょうか?

 しょっちゅう喧嘩ばっかりしていましたけど……一番下の弟なんて昔はかわいかったのに、年々生意気になっちゃって」


「日本には『喧嘩するほど仲がいい』という言葉があって矛盾していると思っていたが、今日ようやくその意味が分かったような気がする」


「え、えええ……」


 そんな大層なものではけしてないのだけれど……まあ、彼が前向きに受け取ってくれているならよしとしよう。


 さぞかし失望させてしまったに違いないとばかり思っていた。


「もっと私も両親と喧曄をしておくべきだったのかもしれないな」


 不意に彼の声が湿ったような気がして私はハッとした。


 彼のご両親は早くに亡くなられたんだった。


 それなのに私ったら……久しぶりに家族に会えたこともあっておかしなテンションになってしまって、彼に対する配慮が欠けていたかもしれない。


「なんだか……すみません……私の家族の話ばかりしてしまって……」


「もう二十年も前の話だ。

 記憶も定かではないし、私のほうは特に話すこともない。

 気にしないで続けたまえ」


「でも」


「もっと君の話を聞きたい。

 知りたいと思っている」


 彼は、私の言葉を遮るようにそう言った。


 もしかしたら……あまり触れてほしくない話なのかもしれない。


 だとすれば、彼の言うとおり、その件についてはあまり気にせずに話したほうがいいようだ。


 私は、鈍いタイプで過去にそういった類の地雷を気づかず踏みまくってきて、その都度高校からの友人にこっぴどく叱られてようやく少しだけ分かるようになってきた。


 いい加減、友美にも連絡しなくちゃ。


 しようしようと思っていながらも、一体どう話を切り出したものか分からず延ばし延ばしになってしまった。


「この家で君はご家族を愛し愛されて育ってきたのだな」


 彼は、改めて感慨深そうに私の部屋を見渡して、それから窓の外を眺めた。


「……田舎なので本当に何もないですし、家も古くて……恥ずかしいです」


「豊かな自然に恵まれているのが何よりではないかね?

 以前、京都に観光で訪れた際に借景というものに出会ったが、それを彷彿とさせる趣が感じられる」


「は、はあ……」


 借景って窓を額縁に見立てた絵のように、外の風景をインテリアの一部にとりいれるとかいうものだったっけ?


 前向きを通り越して過大評価にも程がある気がしてならないけど……確かに古いものに価値を見出す文化もあるわけだし、見ようによってはそういう風に受け取ることができるのかも。


 そもそも彼はお世辞を言うようなタイプではないし、素直にありがたく受け取っておくことにしよう。


 相変わらずいろいろと突っ込みどころは実に多いけれど。


 とりあえず顔合わせも思ったよりもずっとスムーズに済んだことだし、結果よければ全てよし。


 私は長いため息をついてベッドの端に腰かけると、窓辺に佇む彼を改めて眺めた。


 背も高く身体つきもがっしりとしているため、六畳しかない私の部屋はものすごく窮屈そうに見える。


 普段が何十畳という広くて豪奢な部屋で暮らしていることもあってなおさらそんな風に感じられるのだろう。


 それにしても、まさかこの部屋に皇帝が訪れるなんて。


 昔の私は思いもよらなかったし、いまだになんだか夢でも見ているのでは?


 と疑わしく思ってしまう。


 私が彼を眺めてあれこれと思いを馳せていると、不意に彼が私のほうへと不敵なまなざしを投げかけてきた。


「それで、先ほど何を隠したのかね?」


「っ!?」


 心臓が止まるかと思った。


 てっきりうまくごまかせたと思っていたけど、まさか気づかれていたなんて。

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