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一回り年上な皇帝陛下に溺愛結婚されました  作者: アルケミスト


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 東京郊外の古い一軒家。


 私の実家にただならぬ緊張の糸が張り巡らされていた。


 いつもは賑やかな居間も、奇妙なほどしんと静まり返っている。


 ソファに私と彼が並んで腰かけ、その対面に私の両親が座っていて、さらにその背後には愚弟共が三人こちらの様子を窺っている。


 本人たちは隠れているつもりなんだろうけれど、残念ながらバレバレ。


 我が弟たちながら本当にもう……昔から変わらないというか成長しないというか。


 そして、少し離れた場所には、ハロルドさんがいつものように気配をころして彼の傍に控えている。


 まるで忍びのように鋭いまなざしを周囲に向けながら。


 表の玄関にはSPの人たちが警護に立ってくれているけれど、そんな彼らに負けるとも劣らない殺気がダダ洩れている。


「……そ、そ、粗茶ですが……」


 沈黙を破ったのは、緊張にこわばりきったお母さんの声だった。


 お茶を彼に差し出す手も震えていて、中身が今にも零れてしまいそうで危なっかしいことこの上ない。


「ありがとうございます。

 これはつまらないものですが」


 彼はハロルドさんを一瞥すると、紙袋を受け取って中身を私の両親へと差し出した。


 まさか……彼が手土産まで用意しているなんて思いもよらなかった。


 一体何を?


 と戦々恐々としていると、箱の中からはまばゆいばかりの熊の置物が出てきて二重に驚かされる。


 あれってどこのご家庭にもなぜかある熊の置物。


 鮭をとっている最中と思しきやつ。


 ただし、大きく異なるのは色とりどりの宝石で全身をぎらつかせていること。


 大阪のおばちゃんの間で流行りそうなド派手な外見。


 お父さんもお母さんもギョッとした顔のままその場に固まりきってしまっている。


 宝石が豊富にとれる国だとは聞いていたけれど、まさかこんなものをひそかにオーダーメイドしていたなんてサプライズのつもりなのだろうけれど、宝石とお金の究極の無駄遣いにも程がある。


 せめて一言相談してくれればこんなことにはならなかっただろうに。


 私がぐったりしていると、彼は私に流し目をくれる。


「サプライズは気に入ってもらえたかね?」


 と言わんばかりのドヤ顔。


 き、気持ちだけはものすごくうれしい。


 だけど、なぜかとてもむなしい。


「というわけで、ぜひともお嬢さんと結婚させていただきたくまいりました」


「「どうぞどうぞ!」」


 彼が話を切り出すや否や、お母さんとお父さんのキョドった声がハモった。


 刹那、外野が吹き出し、必死に笑いを堪えている。


 これは一体何のコントだろう?


 死ぬほど悩んでいた私がバカみたい……杞憂にも程がありすぎ。


 まさかの快諾に私のほうがドッと疲れる。


 っていうか、娘の結婚をこんなに簡単に決めてしまっていいものなのだろうか?


 もっとこう……「娘はやらん!」とかちゃぶ台の一つでもひっくり返せとまでは言わないけれど(そもそもちゃぶ台なんてないし)、もう少しは渋ってくれても、いや、この際渋るフリだけでもしてほしかったというか……。


 私がジト目になって放心していると、「にゃあん」という鳴き声と共に飼い猫のセーラが私の膝上に飛び乗ってきた。


 ぐるぐると喉を鳴らしながら、しきりに私に身体をこすりつけてくる。


 大学入学のとき、私が家を出ていくときと同じように。


 実家に帰省して、東京に戻るときと同じように。


 遠く離れた国に行ってしまうのを寂しがってくれるのはセーラだけとか……なんだかシャレにもなっていない。


 私はセーラの頭をわしわしと撫でてぎゅっと抱きしめる。


 ふかふかのお腹に顔を埋めてモフるとお日様の匂いがして今までの疲れだとか緊張だとかがゆっくりと解けていく。


 あまりモフりすぎると嫌がられてしまって、迷惑そうな顔でまた廊下のほうへと戻っていってしまうのもいつもどおり。


 でも、結婚してしまえば、あまり帰省はできなくなるだろうし、セーラも私が小学生の頃に拾ってきた子だし……後何度こんな風にモフれるか分からない。


 そんな風に思うと急に胸が締め付けられる。


 この家に帰ってこられるのも後何度だろう?


 愚弟共は年下だし私よりもずっと長生きしそうなのでまだいいとしても、お父さんとお母さんもやはり年をとったなあと思うし。


 複雑な思いにそっと目を伏せると、私のそんな内心を見抜いたかのように、彼が私を励ますようにそっと手を握ってくれた。


 私も彼の手を握り返すと、切ない思いが幾何か紛れてくる。


 本当に彼には敵わない。


 どうしていつも私が一番欲しいと思うものをそれとなく差し出してくれるのだろう。


「と、とりあえずお口に合うかどうか分かりませんが、すき焼きを用意していますので……い、一緒にいかがですか?」


「い、いやっ、さすがに皇帝様と庶民が一つの鍋をつつくのは問題があるだろう?」


「それじゃ俺らが責任もっておいしくいただいておいてあげるって!」


「母さん、一番いい肉買ってたし!

 いつも一番安いコマ切れ肉なのに!」


「ばっ! バカ言われないのっ!

 あんたたちは部屋に戻ってなさい!

 なんでここにいるのよ!

 邪魔しちゃダメってあれだけきつく言っておいたのに」


「まあまあ、肉の話が出た時点で仕方ないだろう。

 父さんも昔は一に肉、二に肉、三に肉って感じだったもんなー」


 外野の愚弟共がついに隠れている(つもり)のを我慢しきれなくなったようで余計な突っ込みを入れてくる。


 それをしかりつけるお母さんに、愚息にかつての自分を重ねて懐かしむお父さん。


 ああ……どうしようもないくらい、早くもいつもの我が家の日常すぎる。


 なんとか化けの皮は剥がれないかなって思っていたのだけれど、やっぱりダメだったか。


 よりにもよっておもてなしメニューがすき焼きだったなんて。


 盲点だった。


 きっと彼にも呆れられているに違いない。


 私が遠い目をしてたそがれていると、彼は私の手を再びぎゅっと握り締めてきた。


 見れば、彼は穏やかな微笑みを浮かべて私の家族を見つめていた。


 その横顔がどこか寂し気にも見えて、思わず私はじっと見入ってしまう。


 呆れている風には見えない。


 むしろ、その逆のような。


 気にはなるけれど、突っ込んでその理由はおいそれと尋ねることはできないような感じがして、私は彼の手を再びきつく握り締め返すことしかできなかった。


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