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一回り年上な皇帝陛下に溺愛結婚されました  作者: アルケミスト


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 あたたかい……。


 ずっとずっとこんな場所を探していたような気がする。


 暗闇の奈落で背中を丸めたまま、私は今までに感じたことのない安らぎに満ちた世界に包まれていた。


 こんなにもあたたかで安心できる場所があつたなんて知らなかった。


 誰の目も評価も気にすることなく、素の自分のままでいられる場所。


 昔はもっと世界が単純だった気がするのに。


 いつからだろう?


 何をするに難しいことが増え、他の人たちと自分を比べては落ち込み、悩みが尽きなくなったのは。


 ずっとここにいられたらどんなにいいか。


 そう思いながら、気が付けば私の頬を一筋の涙が伝わり落ちていった。





 頬に柔らかなものが触れる感触に、深い深い眠りの底から意識が頭をもたげていく。


 まだもう少しあと少しでいいから、この心地よい世界に包まっていたい。


 そう願うも、耳元に渋い声で囁かれ、胸がとくんっと跳ねあがる。


「おはよう。

 ナゴミ。

 よく眠れたかね?」


 低くて太い声色が鼓膜に沁みていき、なんとも言えない心地になる。


 なのに、頭にはいまだモヤがかかっていて、誰に何を言われたかすら分からない。


 これだから低血圧は困る。


 このせいで何度遅刻してしまったことか。


 いや、通勤に時間がかかるということもあって、そもそもの睡眠時間が三時間程度というのが一番の原因なんだろうけれど。


 それでも、そんなことはただの言い訳に過ぎないと上司には流されるだけ。


「っいけない!

 遅刻遅刻っ!」


 憤怒の表情を浮かべた部長の顔が脳裏をよぎった瞬間、一気に眠気が吹き飛んで、ぼやけていた視界の霧が晴れた。


 私はがばっとベッドから身体を起こすと、時間を確かめるべくいつもベッドのサイドテーブルに置いているスマホを手探りで探すが、どこまでもフカフカなマットで、まずテーブルに手が届かない。


 え?


 どうして!?


 私のスマホはどこ!


 早く会社に行かなくちゃ、また朝礼でつるしあげられて「社会人失格」って笑いものにされてしまう。


 半ばパニック状態になっている私を彼が宥めてきた。


「落ち着きなさい。

 先約があったのかね?

 一体君はどこへ行こうというのかね」


「どこへって、会社に決まって……」


「観光でという話だったはずだが、君は仕事で我が国に来ていたのかね?」


「え……観光?」


「仕事というならば、すぐにハロルドに送らせよう。

 どこへ送ればいいか教えなさい」


「……えっと……どこへって……丸の内の端っこのボロいビル……って、あれ?

 我が国?

 ハロルドって?」


 そこでようやく自分がまだ寝ぼけていたことに気が付いて我に返ることができた。


 ここは私の部屋じゃない。


 っていうか、こんな天蓋っきのキングサイズのベッド、ウチのワンルームに置けたものではない。


 そうだ私、仕事があまりにも忙しすぎて、壊れてしまうかもっていう寸前でどうにか休暇をもらって、もろもろぐちゃぐちゃな自分にいったんリセットをかけるべく、無謀とも言える一人旅を決行したんだっけ。


 その旅先、今まで知らなかった遠くの外国で、彼と出会ってしまった。


 目の前にくつろいだ様子で横たわる紳士をまともに正視できず、私は視線をさまよわせながらシーツを胸元に搔き寄せる。


 私もそしてきっと彼もシーツの他は何一つ身につけていない。


 それが何を意味するかは明らかで、途端に彼と過ごした濃厚な時間が鮮明なまでに脳裏に蘇ってきて死ぬほど恥ずかしくなる。


 ソファの上で結ばれた後、隣の寝室のベッドまで運ばれて、そこでもまたさらに激しく結ばれてしまった。


 どうりで足の付け根が軋んでいるはずだ。


 身体のあちこちが痛いし、何かが挟まったままのような感じもしているし。


 激しい行為の名残に気が付くや否や、彼の繊細な指使いや雄々しい腰使いまで生々しいまでに思い出してしまって赤面する。


「あ、あのすみませんわ、私寝ぼけてて。

 仕事とか遅刻とかないです」


「そうかね。

 よほど忙しかったのだろうな。

 夢の中ですら仕事に追われるとは」


「……はい」


 彼の言葉に、なぜか胸がきゅっと詰まって不覚にも涙ぐんでしまう。


 そう、忙しかった。


 忙しすぎた。


 毎日のように終電で帰って、休日は泥のように眠るだけ。


 それでも仕事はどんどんと山積みになっていく一方で。


 でも、そのくらい私の会社では「ふつう」だった。


 違和感を覚えていたのはきっと私だけ。


 それくらいできて当然。


 そう言われてしまうのが怖くて、同僚で学生時代からの親友にすら相談することができなかった。


 きっと本当は、誰かに分かってほしかったに違いない。


 こんな風に。


 彼は黙ったまま私の頭をいとおしげに撫でてくれる。


 時折髪を指で解かしながら。


 こんなに優しくされると甘えてしまいたくなる。


「どうしたのかね?」


「い、いえなんでもない、です」


「なんなりと遠慮なく言ってくれたまえ。

 君が求婚を受けてくれて、私は心の底から感謝しているのだから」


「へっ!?」


 今、とんでもなく聞き捨てならない言葉を耳にした気がする。


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