第14話 プレゼント
その後また自転車に乗って、次は道の駅へ向かう。
道の駅の食事コーナーで島の特産品である生そうめんを食べることにした。
乾麺ならよく食べるけれど、生麺を食べるのは初めてで、そのもちもちの食感とのど越しの良さに感動した。
先輩も感動したのか、同じタイミングで顔を上げ目が合う。
「美味しいね」と笑う先輩に「はい」とだけ答え黙々と麺をすすった。
そうめんを食べ終えた後、デザートにすもものソフトクリームを買ってお店の外に出る。
高台にある道の駅は瀬戸内海を一望できる場所だ。絶景を眺めながら食べるソフトクリームは一段とおいしく感じる。
それに自転車を漕いで、たくさん歩いて疲れたからか、冷たくて甘酸っぱいソフトクリームが体に染みた。
それから道の駅周辺をぶらぶらと散歩をして、また自転車に乗って港へと戻った。
自転車を返却し、切符売り場で切符を買い、すでに港に着いていたフェリーに乗り込む。
客室には入らず、そのまま甲板に上がった。
船内アナウンスが流れ、すぐにフェリーは出港した。
少しずつ小さくなっていく島を見つめ、もの悲しさを感じる。
「あっという間でしたね」
「そう思うってことは、楽しんでくれたってことかな?」
「楽しかったですよ。とっても」
「よかった。……ねえ、茜」
「なんですか?」
先輩は私の名前を呼ぶと、鞄から小さな袋を取り出し渡してくる。
「プレゼント。一週間早いけど、誕生日おめでとう」
「誕生日、知ってたんですね。ありがとうございます」
正直なところ、このデートも誕生日に誘われるのではないかと思っていたりもした。
そしたら誕生日デートになるのかな、なんて。
でも誘われたのは今日だった。
そもそも言ってもいないのに先輩が私の誕生日を知っていると思うなんてどうかしている。
先輩が私のことを全て知っているわけないのに、無意識に期待してしまった自分が恥ずかしくて、絶対に一週間後が誕生日だって言わないでおこうと思っていたのに。
「開けてみて」
渡された袋を開け、中に入っているものを取り出す。
それは、黄色い花びらがたくさんある小さな花と、パールが揺れるイヤリングだった。
「可愛い……」
「その花、サンビタリアっていう花をモチーフにしていて『私を見て』って意味があるんだ。ちょっと女々しすぎたかな」
「そんなことないです。嬉しいです」
それに、イヤリングには『いつもそばにいたい』『あなたを守りたい』という意味がある。
先輩がその意味も知ってイヤリングを選んでくれたかどうかはわからないけれど、すごく気持ちのこもったプレゼントだ。
私のことを想ってくれているんだと実感する。
「先輩の誕生日はいつですか?」
「僕は五月だよ」
「もう、終わっちゃいましたね。来年は私も先輩の誕生日お祝いします」
私の言葉に先輩は驚いた顔をする。
「来年も、一緒にいてくれるの?」
「もらいっぱなしは性に合わないので」
「嬉しい。まだまだ先だけど絶対に忘れないでね」
「期待はしないでくださいね」
なんて強がって言ってみるけれど、純粋に来年も一緒にいたいし、先輩の誕生日をお祝いしたい。
私はもらったイヤリングを開け、耳に付けてみた。
先輩の方へ向きイヤリングを揺らすように首をかしげる。
「似合いますか?」
「うん。すごく、綺麗だ」
「あ、りがとうございます」
イヤリングのことを綺麗と言ったのだろうけど、私に言われたようでドキッとした。
先輩は私の耳たぶにそっと触れ、撫でるようにイヤリングを指に這わせた。すると、急に真剣な表情になる。
「茜が亡くなった親友のことをずっと想っているのはわかってるし、それは悪いことじゃない。気に病んでしまうのも仕方のないことなのかもしれない。でも、亡くなった人じゃなくて、今目の前にいる人のことを見て欲しい。僕のことを、ちゃんと見て欲しい」
「先輩……」
このプレゼントの深い思いを感じた。先輩の本音も垣間見えた気がする。
そして、一番大切なことを気づかされた。
『亡くなった人じゃなくて、今目の前にいる人のことを見て』
私はどうして今までそんな大切なことに気づけなかったのだろう。もちろん、夏美のことはこれからもずっと私の罪として背負い続けるんだと思う。だけどそればかりで、今を見ていなければ同じことを繰り返してしまう。
今いる大切な人を失うことになるかもしれない。それではいけない。
先日香耶ちゃんに言われたことも頭をよぎる。大切な人はいなくなってから気づくんだと。
過去にばかり囚われてばかりいたら、香耶ちゃんみたいに私のことを気にかけてくれている人のことも知らずに過ごすことになる。
私は、今を生きているのだから、一緒に今を生きていく人たちとしっかり向き合わなければ。
「先輩、ありがとうございます」
夏休みが終わったら、気持ちを全部伝えよう。先輩といると楽しくて、心が穏やかになること。
先輩のおかげで気づけたこと、変わろうと思えたこと。友達ができたこと。
先輩を、好きになったこと。
たとえ私が賭けに勝ったとしても、これからもそばにいたいと。
伝えたら先輩は喜んでくれるかな。いつか、一緒に笑い合える日がくるかな。
今度は私からお出かけに誘ってみよう。
そう決意して、私たちはいつもの街へと戻ってきた。