IFルート3:「白の神 優斗」
IFルート3:「兄が“神”になった世界」を、重厚で静かなバッドエンドとして描きます。
兄・優斗は、観測者の使命を捨てた。
世界の流れに干渉してはならない――それは観測者の絶対規則。
だがミナが堕ち、魔王となりかけた瞬間、彼の中で「兄」としての感情が爆発した。
「……この世界ごと、お前を救う」
その瞬間、観測者の機能が焼き切れた。
そして代わりに目覚めたのは、神という存在だった。
優斗は「神」としてこの世界を再構成した。
ミナの心が壊れないように、
ミナが力を持たない普通の少女として生きられるように。
だがそれは、ミナの記憶を“消す”ことを意味した。
優斗はすべての記憶を持ったまま、空の高みにただひとり。
彼は神として、空から静かに妹の暮らしを見守っていた。
ミナは花を育て、小さな町で笑い、誰かに恋をした。
優斗はそれを笑顔で見ていた。
だがそのたびに、心の奥が締めつけられる。
「彼女にとって、俺はもう“存在していない”」
ある夜、ミナは不思議な夢を見る。
青白い光の中、知らない男が微笑んでいた。
「よかった……君が幸せなら、それでいい」
目が覚めたミナは泣いていた。理由はわからなかった。
ただ、心のどこかが温かく、どこかがぽっかりと空いていた。
世界は静かに、穏やかに流れていった。
ミナは結婚し、子を産み、そして老いていった。
優斗は神として、ただ見ていた。
一度も姿を現さず、声もかけず、
ただミナが“幸せであること”を祈り続けた。
やがてミナは寿命を迎える。
その瞬間――神である優斗は、「存在理由」を失う。
「……ありがとう。お前が生きてくれて、よかった」
そして、神・優斗の魂もまた、空に消えていった。
世界のどこか。新しく生まれた女の子が、空を見上げる。
母親が聞く。「どうしたの?」
少女は答える。
「ううん、なんとなく――空に、誰かいる気がして」
その空には、白い羽根がひとつ、静かに舞っていた。
君を救って僕は消えた。
どれだけ過去をやり直しても、すべてを救うことはできない。
それでも彼らは歩みを止めなかった。選んだのは、痛みの先にある可能性。
観測者も、監督者も、ただ見ているだけではいられない。
物語は、誰かの決断によって確かに動き続けている。