IFルート2:「変化なき世界、静謐の終末」
IFルート2:「第三の選択 “人間”ミナの物語」
この第三の選択は、魔王編とも神編とも違う、「何も起こさなかった」からこそ意味を持つルートです。
静かな終末こそが、最も観測者の心に爪痕を残す 儚くも美しいバッドエンド――。
兄・優斗の死の後、世界の人々はミナに跪いた。
彼女を「神」として崇める者。
彼女に「魔王」として復讐を望む者。
選ばれし者だと、誰もが口をそろえた。
だが、ミナはこう答えた。
「私は何者にもならない。ただ“私”として生きる」
彼女は剣も冠も受け取らなかった。
代わりに、誰も見向きもしなかった東の荒野に移り、
倒れた子供を拾い、弱き者に手を差し伸べ、小さな畑を耕した。
世界の大勢はミナの選択を嘲笑った。
「英雄の妹が隠遁生活だと?」「逃げたな」
けれど誰も気づいていなかった。
ミナの存在によって、世界は崩壊から救われていたことに。
観測者・優斗はそれを“外側”から静かに見ていた。
妹が何も選ばないことで、世界が“崩壊も奇跡も起きずに済んだ”という不思議な平衡状態を保っていたのだ。
だが、それは“観測者の目的”を果たせないということでもあった。
観測するべき「変化」が起こらない。
「奇跡」も「滅び」も訪れない。
世界は“静かすぎる”のだ。
その結果――
観測者の上位存在・**監督者は、
「この世界は必要ない」と判断し、“削除”**を決める。
優斗はそれを止めようと奔走するが、
観測者には干渉権限がない。
ただ見届けることしかできない。
そして、世界の終末の日――
ミナは子供たちと焚き火を囲みながら、静かに歌を歌っていた。
その瞬間、空が白くなり、すべてが崩れていく。
「……来たんだね、兄さん」
世界が塵となっていく中、ミナは空を見上げた。
観測者として立つ優斗の姿が、遠くに見える。
そして、彼女は笑った。
「私の世界は、優しかったよ」
「きっと、誰かの中に残ってくれる」
その瞬間、世界は完全に“観測の外”に消えた。
優斗はただ一人、無の領域で立ち尽くしていた。
観測者としての“存在理由”を一つ、失った虚しさと共に。
けれど――ほんの一瞬だけ、風が吹いた気がした。
どこからか、“ミナの歌声”が聞こえたような気がした。
終わりなき選択の果てに、彼らが辿り着いたのは、ほんのひとときの静けさでした。
傷ついた世界も、壊れかけた関係も、簡単には戻らない。
それでも、それでも——手を取り合うことだけは、まだできる。
監督者の沈黙が意味するのは、観察の終わりか、それとも新たな始まりか。
答えは誰にもわからないまま、IFは静かに幕を下ろします。