IFルート1:「黒の玉座」
IFルート1:「もしもミナが神ではなく“魔王”になったら」
このルートでは、神にならなかったミナが“力”を選び、支配によって世界を変えようとする――
その果てに辿りつく、美しくも切ないバッドエンドを描きます。
もしも、あの時――
兄を失ったミナが「人々のために祈る」のではなく、「力を求めて復讐する」ことを選んでいたら。
彼女は“神”ではなく、“魔王”になっていただろう。
ミナは世界を憎んだ。
兄・優斗を殺した人間たちを、システムを、そして、世界そのものを。
涙はとっくに乾いていた。
代わりに、黒い意志が燃えていた。
世界の北方――《終焉の地》と呼ばれる凍てつく大地にて、
ミナは滅びかけた魔族たちの王座を奪い、「魔王ミナ」として君臨した。
復讐の炎は止まらない。
彼女は帝国を焼き、神殿を破壊し、英雄を次々と討ち滅ぼした。
彼女の足音は、世界の崩壊の予兆となり、人々はこう呼んだ――
「破壊の魔王」「災いの巫女」「絶望の黒花」――
だが、誰も知らない。
彼女が“兄の代わり”に世界を破壊し続けていたことを。
兄が「観測者として見ている」ことも。
優斗は見ていた。
ミナが魔族の力を使い、魂を削り、すべてを壊していく姿を。
ついに世界は膝をついた。
最後に残った人間国家が滅び、全ての秩序が崩れ去った日――
ミナは、誰もいない王座に一人座っていた。
「……兄さん。もう、全部壊したよ」
静かに、誰にも届かない声で呟いた。
「……だから、もう……迎えにきてよ」
その瞬間、世界が止まった。
時が凍り、空が裂け、あの“観測者”が現れた。
優斗はそこに立っていた。
もう何も映さない瞳で、かつての妹を見ていた。
「……まだ、お前は残っていたんだな」
「……兄さん、会いたかったよ」
二人の間に、言葉はもう要らなかった。
ミナは玉座から立ち上がり、優斗の胸に抱きつく。
そして、自分の刃を――自らの腹に、深く突き刺した。
「じゃあ、これで……やっと、おしまいだね」
「……ああ、やっとだ」
ミナの身体が崩れ、黒い花びらのように舞い散っていく。
世界の最後の色だった。
優斗は彼女の欠片を手に取り、そっと目を閉じた。
それは、永遠の別れ。
誰にも知られず、祈られず、称えられることもない――静かな、終わり。
だけどそこには、確かに“兄妹の想い”が残っていた。
それは誰にも触れられない美しさだった。
そして、世界は幕を閉じた。
この章では、「もしも」の可能性にすがった未来が描かれました。
たとえ過去を変えても、すべてが救われるとは限らない。
それでも、人は選び、進もうとします。
そして、影のように常に傍にあった“監督者”の視線は、
その選択すらも既に知っていたのかもしれません。
物語はIFの先へ、ほんのわずかに扉を開けました。