表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

第六章:観測者、再び

神を望んだのは、人か、彼女自身か。

否応なく崇められる存在となったミナは、もう「普通の少女」ではいられない。


第6章では、ミナがついに“神の器”として立たされる瞬間が描かれます。

それは祝福ではなく、呪いにも似た運命の始まり――。

彼女の周囲には、信徒たちの信仰が積み重なり、教団という枠組みが形を成してゆきます。


けれど、その渦中にいるミナは、ただ静かに思うのです。

「兄さまがいたら、なんて言っただろう」と。


この章は、彼女が“選ばれてしまった者”として歩み始める物語の転機です。

その先にあるものを知っている読者も、まだ知らぬ読者も、

どうか、彼女の孤独と小さな祈りに、耳を傾けてください。

 時間も、歴史も、感情さえも届かない場所に、ひとつの意識が存在していた。


 名を、優斗という。


 それは「死んだはずの兄」の魂。

 だが今、彼は“観測者”――この世界のあらゆる時、あらゆる人間を“見るだけ”の存在だった。


 


 それは罰だった。

 妹を救えず、世界を狂わせ、神とした罪。

 その果てに、彼は“観測者”という罰を受けた。


 すべての世界線、すべてのミナを――見届ける役割。

 干渉はできない。ただ、見るだけ。

 助けたくても、手を伸ばせば“記録”が乱れ、罰が重くなる。


 


 ミナが泣いていたときも、

 ミナが神になったときも、

 ミナが人に拒絶され、神殿の頂から消えたときも――


 優斗は、ただ見ているしかなかった。


 「……もう、いいだろ。罰は……十分すぎる」


 


 彼の言葉に、答えるものはない。

 この無の空間には、彼と沈黙しかいない。


 だが、彼はある“異変”に気づく。


 ――ミナという存在の記録が完全に抹消されている。

 神殿から。信仰から。人々の記憶から。歴史からすら。


 


 「……まさか。監督者……?」


 観測者に罰を与えた上位存在、“監督者”。

 その力が、記録ごと妹の存在を――消した。


 それはただの死ではなかった。

 存在の否定。

 愛した者の、完全な喪失。


 


 「……もう、無理だ。俺は……俺だけでも、もう助かればいい。もう、ミナなんて……どうでもいい……」


 崩れる感情。壊れる論理。

 観測者という存在の枠がひび割れていく。


 


 「もういい……もう……疲れたんだ……」


 


 彼は、観測者の力を自ら捨て、何もない空間へと沈んでいく。

 誰もいない、記録もない、全ての記憶すら届かない“真の無”へ。


 そこで、かつて妹だったもの――歪み、穢れ、憎しみに満ちた“残骸”が現れる。


 笑っていた。泣いていた。壊れていた。

 それは幸せを願っていた。


 


 「……ああ、もう。もう十分だ」


 優斗は残像を抱きしめ――そして、静かに“殺した”。


 


 その瞬間、彼は本当に「一人」になった。


 この先、誰もいない。何もない。永遠の、孤独。


 だが、それこそが彼の望んだ“救い”だったのかもしれない。

ミナは“神”として人々に祀られ、その祈りの中で孤独を深めていきます。

それは救いであり、同時に逃れられない運命でもありました。


けれど――彼女が見上げた空の向こうには、

まだ観測されぬ世界を見つめる「監督者」の気配が静かに潜んでいます。


すべてを見届ける者と、すべてを背負わされた者。

二人の兄妹の物語は、ここでいったん幕を下ろします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ