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第四章:神とされた少女、崩れゆく信仰

信仰とは、光だ。

誰かが見上げる空に、祈りを託すようにして生まれる。

だがその光は、いつしか重荷になる。

崇められる存在は、同時に孤独でもあるからだ。


ミナは、神になろうと思ったわけではない。

ただ、兄の死を無意味にしたくなかった。

けれど彼女の願いは、やがて「教義」になり、「制度」になり、「正義」になった。


これは、そんな“神”にされた少女の、静かに壊れていく物語。

兄・優斗を失ったあの日から、ミナの心は音を立てて崩れ始めた。

 けれど世界は、彼女を放ってはおかなかった。


 救出作戦で妹を助け、命を落とした兄――その出来事は“奇跡”として語られた。

 そしてミナは、悲劇の少女でありながら、“聖女”と呼ばれるようになった。


 だが、ミナの中では兄の死を無駄にしたくないという執念が燃えていた。


 「私は……世界を変える。この狂った世界を」


 やがてミナは〈聖光の理〉と名乗る組織を立ち上げる。

 彼女を神と信じる者たちが集まり、数年のうちに一大宗教国家が生まれた。


 人々は奇跡を信じ、祈りを捧げ、平和を讃えた。

 だが、誰も知らない――その“神”は、たった一人の兄を失った、ただの少女だということを。


 


 やがて時代が動く。

 信者たちの数が増え、国ができ、制度が整うにつれて――その中に、疑念と不満が芽吹き始めた。


 「なぜ神は沈黙しているのか」

 「なぜ我らの生活は豊かにならぬのか」

 「なぜ“異端者”を粛清するのか」


 


 そして、ついにそれは形となる。


 ――神に仕えるはずの神官たちが、教団の中央神殿で“ストライキ”を宣言したのだ。


 神への祈りをやめ、説教を止め、断食すら放棄した。

 それは、神を“人間”だと暴くための決起だった。


 


 「お前は、神などではない」

 「兄の死を偶像にし、己の悲しみを免罪符にしただけの女だ!」


 告発と共に、かつての部下たちが神殿から去っていく。


 ミナは、それに耐えられなかった。


 「私は……誰のためにここまで……っ」


 嘲笑と怒号の中、彼女は祭壇の前に崩れ落ちた。


 祈りは届かない。奇跡は起こらない。

 兄はいない。世界も救えない。残ったのは、空っぽの「神」という名だけだった。


 


 夜、彼女は神殿の最上階から街を見下ろしていた。

 涙はもう枯れていた。


 「兄さん……もう、私、無理だよ……」


 静かに目を閉じ、彼女は足を踏み出す――


 


 次の日、神殿の中心に花が捧げられていた。

 ミナという“神”は、もういない。


 ただ一つ、彼女の記録だけが――まるで最初から存在しなかったかのように、完全に“消されて”いた。

人はなぜ、誰かを「神」にしてしまうのだろうか。

傷ついた少女の掌から零れ落ちた祈りが、いつしか人々の救済となり、崇拝の対象となった。

それはミナが望んだ形ではなかったはずなのに――彼女自身も、その渦に巻き込まれていく。


この章では、「信じること」の光と影を描こうとしました。

誰かにすがるという行為は、人を救いもするが、同時に誰かを歪める。

その始まりが、静かに、しかし確実に進んでいるのが第4章の終わりです。




ここから先、ミナは「神となる少女」として、選択を迫られていく。

その歩みが、彼女にとって祝福であることを願いながら、筆を置きます。


次回もお願いします。

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