IFストーリー:4「転生の果て、ただ誰かを想う」
2人とも記憶を失った転生世界」のIFストーリーを文章として丁寧に書き出します。
世界が終わった。
神も、魔王も、観測者も、すべてが役目を終え、
ふたりは“まっさらな存在”として、新たな世界に転生した。
名前も、記憶も、絆さえも失って。
少年は「ユウ」と名づけられた。小さな村の片隅で、誰よりも優しい心を持つ青年に育った。
一方、少女は「ミナ」と名乗っていた。遠く離れた街で、夜空を見上げることを好む、不思議な瞳の持ち主だった。
ふたりは、出会うべくして出会う。
世界を巡る旅の中で、偶然にも同じ宿に泊まり、偶然にも同じ夢を見た。
――炎に包まれた塔。
――血に染まった兄の胸。
――神として崇められる少女の瞳。
夢の意味はわからない。だが、胸が痛む。
何かを、取り返さなければいけない気がした。
ふたりは意気投合し、旅を共にすることを決めた。
けれど世界の誰も、彼らがかつて“兄妹”だったとは知らない。
彼ら自身も、それを思い出すことはない。
だがある夜。焚き火の前で、ユウはミナに問う。
「……なあ、ミナ。前にどこかで会ったこと、ないか?」
ミナは少し考えてから、ふっと微笑んだ。
「うん。なんとなく、そんな気がする」
それだけだった。
ふたりはそのまま旅を続けた。
どこか切なさを残しながらも、笑い合いながら。
観測者の視点は、そこにはない。
奇跡も、滅びも、英雄譚もない。
ただ、誰かの隣で目を覚まし、誰かと夕陽を見て、
「生きている」と感じられる――そんな日々が、そこにあった。
けれど、空のどこか。誰も気づかない高みから、微かな声が届く。
「……ミナ。今度こそ、幸せに……」
それが誰の声か、彼女はもう知らない。
けれどミナは、涙をこぼした。
理由もわからないまま、温かい涙だった。