第一話
警察の人に女性と共に連行されることになる。
お父さん、お母さんに申し訳ない気持ちを抱えながらも警察の人の後ろを付いていく。
ちなみに女性は警察に人に引き渡し今は、変わった手錠を付けられて連行されていた。
手錠はどうやら魔力を封じる効果があるらしく彼女は大人しく歩いていた。
時折後ろを振り返りこちらを恨めしい顔で見てくるが…
犯罪者になるわけにはいかないので仕方ない…
しかし、先程まで背負っていた女の子はいつの間にこんなに成長したのだろうか…
確かに綺麗な女の子だった。
長く美しい銀髪に白い長めのワンピースを着ていた少女はいつの間にかその銀髪はそのままだが成人女性に変化していた。
顔は、可愛らしい顔から美しい女性へと成長し、足もスラッと長く身長は俺と同じ位になっていた。
そして何より変化していた部分に目を向ける。
(でかすぎんだろ…)
女性のカップ数なんてわかりはしないが見ただけででかいのがわかる。
(おい、どこを見ているスケベ小僧が!煩悩が溢れているぞ!)
急に頭の中に声が響く。
「えっ!?」
俺が出した声に合わせて周りの警官達がビクッしてこちらを見る。
「どうかしましたか?」
リーダーのような男性がこちらに話しかけてくる。
「いえ、いえ、なんでもないです!はい!」
「そうですか、もうすぐ着きますのでもう少々お付き合いください」
「は、はい」
完全に挙動不審になってしまい訝しい目を向けられたが必死に取り繕う。
(おい、気付かれてしまうだろうが、もう少し自然にしろ)
また頭の中に声が響く。
その声はつい先程聞いた、女性の声だった。
(今、あなたの頭の中に直接話しかけているけど自然にするんだぞ自然に。頭の中で考えればこちらに伝わるから)
(お、おう…)
(まず、自己紹介をさせてもらうか、私の名前はメアリーだ。もう察していると思うが異世界から来た吸血鬼だ)
吸血鬼というのは首に噛みつかれた段階でなんとなく気付いていた。
しかし、それなら俺は今、どういった状況なのだろうか?
(あなたの疑問はもっともだが、今はこの状況を脱却するのが先決なのよ。今のあなたならここの連中を全員倒して逃げれる…だから、)
(ダメだ、俺は警察の厄介になる訳には、いかないんだ!絶対に!)
(むぅ…本当に融通が利かない…こうなったら言いくるめる方向で行くか)
(おい、心の声がそのまま伝わってるぞ。絶対に無理だからな!絶対に!)
警察の世話になった事がわかったらあの人にどんな目に合わされるか…考えただけで震えが止まらない。
(むぅ、ここはあの方法でいこう)
その声を最後に頭へ声が響かなくなった。
嫌な予感がしていたが俺にはどうすることも出来なかった。
成り行きに身を任せるしかないこの身の上をこのあと呪うことになる。
警察署に到着し彼女と別れて取り調べ室へと連れて行かれるかと思ったが普通の応接室に案内された。
部屋にはすでに大柄の男性が待っており、椅子に腰をかけていた。
こちらが入ってきたことに気づくと男性は立ち上がりこちらに頭を下げる。
「今回は、迷惑をかけてしまって済まなかったね…」
そう言って頭を下げる恰幅の良い男性。
「いえ、こちらこそ警察の方に怪我をさせてしまって…」
「まぁ、その辺りの話をしようではないか、とりあえずそちらへどうぞ」
促されるように椅子に腰掛ける。
「私は、この警察署の署長をしている糟屋という。ところで、愛染寺くん…お祖母様は、ご健勝かね…」
先程から怯える眼の前の男性の態度を不思議に思っていたがどうやら俺の素性がバレていたようだ。
「あっはい。毎日元気に門下生達を投げ…いえ、鍛えています…」
そう、俺の祖母は警察官に限らず、国の重鎮達も一目を置くほどの達人であり権力者。
先日の喜寿のお祝いの席には総理大臣からお祝いの言葉が届くほどの人物である。
「お祖母様には、このことはくれぐれも内密にお願いしたい…」
そう言って深々と頭を下げる署長。
どうやらバレて困るのは俺だけではなく、警察側もそうだったようだ。
「利害が一致してるようですね…ぜひ、そのこちらとしても内密にお願いしたい」
その言葉に署長はホッとしたようで文字通り胸を撫で下ろした。
警察としては一般人を巻き込んでしまったことを隠したい。
俺としては、警官に怪我をさせてしまったことを隠したい。
互いにWINWINな提案だった。
互いに了承したと言わんばかり立ち上がり握手を交わし改めて着席した。
心配ごとが消えたので気になっていたことを聞くことにした。
「ところで俺のこの状態は、一体…」
冷静に自身の姿を見返してみると髪は銀髪に染まった上に今まで見たことがないほどに筋肉が膨張しさらには背中から羽の出し入れも出来た。
それに加え歯に大きく伸びた八重歯。
こうなってくると自身が吸血鬼になってしまったのだと改めて認識した。
「その状態は、吸血鬼が行える眷属化の影響だろう」
「眷属化!?じゃあ俺は一生このままなんですか!?」
アニメや漫画などで聞いたことのあるその単語にある程度の予測はついたがそうなってくると俺は、彼女の眷属=吸血鬼になってしまったということだろうか?
「いやいや、吸血鬼の永久眷属化はある行為が必要になる。その姿は、一時的なものだろう。恐らく数時間で元の姿に戻れるはずだ」
その言葉にホッとする。
こんな姿では、祖母になんと言われるかわかったものではない。
「そうですか…家に帰れなくなるかと思いました…そういえば、一体何者なんですか?吸血鬼だということはわかりましたが」
「彼女は、不法入国者でな。不法にゲートでの転移に乱入したあげく逃げ出してそれを我々は、追っていた所に君が偶然出くわしたという訳だ」
「彼女は、ゲートから出てきましたけどあれは一体?」
「彼女は…
そこから彼女の経歴などについて説明を受けることになった。
彼女の名前はメアリー ブラッドレイ あちらの世界では有名な吸血鬼の一族の一員らしい。
彼女は、かなり問題がある人物であちらの世界では、いくつも問題を起こしているそうだ。
そんな彼女にゲートの使用許可など降りることはなかったが、彼女は独自の魔法でゲート転移に乱入しこちらの世界にきた。
しかし、当然不法に転移してきた彼女を捕らえようとしたのだが…ゲートを模倣した魔法で転移を行い逃げ回っていたようだ。
魔力切れになるまで追い詰めた所で俺と出くわしたという訳だ。
「なるほど、そういうことでしたか」
「こちらの不手際に巻き込んでしまい本当に申し訳ない…」
そういって署長とさらには後ろで立っていたリーダーのような男性が頭を下げた。
「いえいえこちらこそ、誤解した上に手を出してしまったのでその話は、大丈夫です。それで彼女は、今後どうなるのでしょうか?」
「強制送還になる予定です」
後ろの男性が答えた。
「そうですか…」
少し後ろ髪を引かれる思いがあった。
今の自身の状態であれば探索者として活躍できるのではという期待もあったからだ。
「ちなみになんですが、この状態は眷属化をすれば誰でもこうなるのでしょうか?」
眷属化の影響は、大きく鬼人族である男性を軽々と持ち上げた上に放り投げる膂力を持っていた。
吸血鬼の眷属がみんなこんな力を持っているというならそれこそ種族としてとんでもない力を持っていることになる。
「いえ、普通はそれほどの変化が起きることはありません、通常はちょっとしたバフがかかる程度のはずなんですが…」
どうやらこの状態は普通ではないらしくここまでパワーアップすることは前例がないようだ。
「そうなると彼女が特別ということでしょうか?」
「いえ、彼女が特別そういった能力を持っていうという情報は、入ってきていません。その辺りを含めて彼女にはいま取り調べを行っております」
それから1時間ほどだろうか、今回のことについての話を聞いていると身体が元に戻っていく、それと同時に力が抜けていく感覚に襲われる。
かなり残念ではあったが、一生戻れないことになることはなく安心した。
「無事に戻ったようですね、それでは帰っていただいても大丈夫です。お送りします」
「いえ、歩いて帰れる距離なので大丈夫です」
「こちらの不手際なのでお送りしますよ」
「いえ、祖母にバレたら大変なので…適当に誤魔化すには歩きのほうが都合がいいので」
「わ、わかりました…」
祖母の話をしたせいか少し顔が引きつっていた。
それから警察署の裏口からこっそり帰された。
そして警察署から家に向かい歩き出して少し経ってから問題が起きた。
警察署から離れるほどにどんどん頭痛がするのだ。
僕は生まれてこの方、風邪も引いたこともない。
これが頭痛か、という初体験と共にその言いようのない痛みに耐えられなくなにかに引っ張られる感覚に従い警察署に引き返した。