第五話『襲撃』
白く巨大な刃物は僕に届くことなく、拳によって目の前で砕かれる。
…待って何で拳で砕かれてんの?
その拳を辿っていくと、その元はどうやら僕の背後から伸びているらしい。
でも僕の後ろにはウルリアさんしか居なかったハズなんだけど…?
「イタタ…危なかったね。こっから移動しよっか」
「はい?」
僕が後ろを振り向くと少し痛そうに右手をぷらぷらと振るウルリアさんが見える。
え?何この人拳であの刃物叩き割ったの?バケモノなの?
「次が来る前に…ちょっと失礼」
僕の状況の理解が追いつく前にウルリアさんは膝の上に座る僕を両手で抱きかかえると扉へと向かう。
その次の瞬間今まで僕たちが座っていた所の背中側からもう一撃が叩き込まれる。
もし同じ場所に居たら今度こそ貫かれてたかもしれない。
「うっ…」
ウルリアさんが両手がふさがったまま器用に扉を開け、そのまま部屋の外へと出る。
外は晴れで、先ほどまでの部屋の中より明らかにまぶしく思わず一瞬目を閉じる。
しかし間もなくこのまぶしさにも慣れ、片目だけ開けられるようになる。
「!」
最初に見えたものは広い草原。ただ完全な平面と言うわけではなく、所々に木々が集まった場所が見えるが、それでも僕がこの列車に撥ねられるよりも前にいた密森林と比べると遥かに広く、列車の速度が速いことも相まって風が強く当たる。
———素晴らしい景色
「うおっと!危ない危ない」
しかしそんなことを思っていられたのもつかの間、突如として眼前に例の刃が現れるが、ウルリアさんがかがみ、それを回避する。
危うく顔面が真っ二つになるところだった…
ウルリアさんは僕を抱きかかえたまま列車の進行方向へと向かっていく。
「まだ追いかけてきてんのか…なかなか、人気者になった気分だね」
ウルリアさんがそう言うのにつられて、追いかけてきているのか気になり後ろの方を見てみるが、そこであまりにも見覚えがある奴が列車の側面に張り付いており、目が合う。
たしかウルリアさんが《魔導機械兵》と言っていたアレは前回暗がりで見た時よりもはっきりとよく見え、その何とも言えない歪さが増している。
前回と違う点は左腕の刃が折れて無くなっていること。
おそらくさっきウルリアさんが叩き割った個体なんだろう。
「…ちょっと気合入りすぎやしないかい?」
ガシャンとすごい音が前方から聞こえ、ウルリアさんが後ろに半歩ほど後退すると同時に天井を突き抜け足元に白い巨大な刃物が刺さるが、ウルリアさんがそれを蹴りで粉砕すると即座に引き抜かれる。こわ。
その空いた穴から上を見ると、後ろにいた個体とほぼ同じ形をしたもう1体の《魔導機械兵》が屋根の上に張り付き、覗き込んでいるのが目に入る。
つまり今僕たちは上と後ろから挟まれた形となった。
どういう訳かウルリアさんの足が止まり、それを好機とばかりに上方の個体と後方の個体が同時に攻撃を仕掛けてくる。
まさに絶体絶命と言ったところ。
車両の通路は狭く、逃げ場は無い。
終わった。
「危ないですよ、医務殿」
その声と共に今まさに斬撃を食らわせようとしていた後方の個体が数個に切断され、力を失ったのか列車から剥がれ落ちる。
それに動揺したのか、上方の個体は刃を引き抜くと勢いよく列車から飛び、木々が比較的密集している場所へと俊敏な動作で逃げて行った。
何が起こったのだろうか?
「お、コノハ君じゃないか。久しぶりだね、元気にしてた?」
「お久しぶりです。おかげさまで、自分は何事も無く過ごせています。医務殿はいかがですか?」
「私も何事も無く過ごせてる…と言いたいところなんだけど、さっきの連中とちょっと交戦してね。おもいっきり殴ったら思ってたより連中の武器が固かったっぽくて、もしかしたら折れちゃってるかもなんだよね」
「なんと!それはいけません!医者を呼んできましょうか?」
「いや医者は私だし、今は私しか列車に乗ってないからね?」
僕を抱えたままウルリアさんが後ろへと振り向いたことで先ほどの襲撃者を切断したと思われる人物が目に入る。
凛々しい顔をして、全く華やかさの無い軍服のような物に身を包み、長い黒髪を後ろで一つにまとめ上げている少女。
その姿は美しいの一言に尽きるが、ウルリアさんとの会話からはどこか抜けている感じを感じさせる。
左手には全体的に湾曲した比較的短い刀が鞘に納められたまま握られている。
おそらくその刀で襲撃者を叩き切ったのだろう。
「…その獣人は噂の、ですかね?」
「ん?あぁ、そうだよ」
じろじろと見ていたからだろうか、その少女と目が合い、少女は僕のことを話題に出してくる。
ていうか何、僕今噂になってるの?
「なるほど……自分は『武蔵野コノハ』と言います。地上での戦闘の際に前線切り開く役割を主に担当しています。以降お見知りおきを」
「ご丁寧にどうも…僕は……っ!?」
「どうかしたかい?」
浦宮優です。
そう言おうとした瞬間、突然の頭痛で出かけた言葉が塞がれる。
とんでもない激痛で、まだ痛い。
あまりの痛さに意味がないと分かっていながらも思わず頭を抱え込む。
「まだ体調が悪いのかな?まあ起きていきなりアレだったらそうもなるか…ゴメンね、コノハ君。ちょっとこの子を医務室に連れて行くついでに手の処置とかもしなきゃだからこの辺で…」
「分かりました。獣人殿も医務殿もお大事になさってください」
「ありがとう。あと遅くなったけど助けてくれて助かったよ。いつもありがとうね」
「いえ、自分はそれが仕事なので。気にしないでください」
その後も二人の間で数言交わされたような気がするが、僕はもう頭痛の痛みが限界を超えており聞こえなかった。
そして最終的に、僕はこの痛みに耐えられず意識を手放す。
何と言うか、本当に最近こんなこと多いなぁ。
読んでいただきありがとうございました。
これから一週間程度忙しくなるので更新頻度が落ちるかもしれませんが必ず更新するのでお願いします。