第四話『不穏』
更新更新…
「おおおおおお!!もう起きていたんだね!なかなか起きる様子がないからどうしたもんかと思っていたけど良かったよ!!!」
「?!」
扉から入ってきた人物に突然抱き着かれ、体が動かせなくなる。
いやいやいや近い近い近い近い!
って言うか意外と力強いなこの人!
肺が潰されてこ…呼吸が……
「ぎ、ぎぶ…」
「え?なんて?」
「ウルリアさん!力強すぎ!この子呼吸できてないですよ!」
「おっと、それはゴメンよ」
「げほっ…ごほっ……」
視界が暗くなり始め、意識を失う直前でエメンさんが抱き着いてきた人物を慌てて止めたことで僕の呼吸は解放される。
急いで極限まで絞られていた肺に空気を取り込み、何とか気を失わずに済む。
最近何かこんなこと多いな……
ちらりと二人の方を見るとエメンさんがさっきの人物に怒っている姿が見える。
まだ呼吸が整わず、意識が呼吸に行っているため何を言っているかは分からない。
「いやぁ、さっきはいきなり抱き着いたりして悪かったね。いやね、獣人を見たのなんて久しぶりで興奮してしまってさ」
「…」
しばらくして何とか呼吸が整うと、先ほどの人物は僕の前にしゃがみ、改めて僕に謝ってくるが、僕は顔をしかめて不満の意を示す。
こっちは滅茶苦茶苦しかったんだから。
ちなみに、今エメンさんは誰かを呼びに行くと言って部屋から出ていてこの部屋にはこの人物と僕の二人だけだ。正直少し怖い。
「そんな顔しないでおくれよ…よっ、と」
「!?」
突然、両脇に手を入れられるとそのまま流れるような動作で持ち上げられ、そして元々僕が座っていた場所に持ち上げてきた張本人が座るとその膝の上に座らされ逃げられないように両腕でホールドされる。
???
何してんのこの人は?
「軽く自己紹介させてもらうね。私は『ウルリア・ノスト』好きに呼んでくれていいよ。ああ、大丈夫。心配しなくてもさっきみたいに強く抱きしめたりしないから」
そう軽く自己紹介を済ませると、ウルリアと名乗ったこの人物は僕の体をベタベタと触ってくる。
僕はあなたの人形じゃないんだけど???
しかしどういう訳か、先ほどあんな目にあわされ今勝手に触られているのに逃げる気がしてこない。
なんで?
「…何やってるんですか?」
それでも何も知らないまま好きに体を触られるのは少し癪なので一応聞いてみる。
「んー?特に何も。癖みたいなもんかな?」
いや特に何もないのかよ。
そう口から言葉が出かけた瞬間、先ほどから途切れていた爆音が再び、しかも複数聞こえ驚いて言葉を飲み込んでしまう。
そろそろ心臓飛び出そう。
「おお、連中結構近づいて来てるな」
「連中って……?」
鳴りやまぬ心臓を押さえながら意味深なことをつぶやくウルリアさんに僕はそう質問する。
こんな凶悪な音を出しているんだから少なくとも友好的な者ではないだろう。
「あぁ、それはね、こっちでは《魔導機械兵》って呼ばれてるやつらだね」
「《魔導機械兵》?」
「そう。《魔導機械兵》」
「って何ですかそれ?」
全く耳にしたことのない単語がウルリアさんの口から出てきて思わず聞き返してしまう。
すると少し困ったような顔をしながらウルリアさんはその質問に答える。
「うーん、私も詳しくは知らないんだけど、数百年か数千年前から人類を絶滅させようと永久に攻撃をしてくる奴らで、見た目が明らかに無機物なんだけど数が多くて意外と強いしなんなら倒しても壊してもキリがないんだよね」
何とも物騒な連中だ。何を目的にそんなことを…ってあれ?なんか心当たりが……
「…もしかして人型でバカでかい刃物とか使ってくる奴もいるんですか?」
「おっ、よく知ってるね。それは結構珍しいタイプだけどたまに見るよね」
やっぱり…どうやら僕のことをしつこく追いかけて右腕をブッ刺してきたのも《魔導機械兵》とか呼ばれてる奴ららしい。
ていうかあんな物騒な奴らをたまに見るとかどんだけ修羅の国なんだ…
そんな会話を交わしながらも爆音は鳴りやまず、鼓膜が悲鳴を上げる。
「…普段は1、2発威嚇射撃すれば下がってくんだけど…今日は珍しく『やる気』があるね」
なんでそんな不穏なこと言うんですかね。
「大丈夫なんですか、それ?」
僕は不安になりながら顔を上へ向けると、ウルリアさんと目が合い、微笑まれる。
「ちょっとよろしくない…かな?」
だから何でそんな不穏なことを言うのか、僕は理解に苦しむ。
不穏なことを言えば不穏が寄ってくる。
次の瞬間、耳を切り裂く金属音と共に壁から見覚えのある大きさの刃物が、僕の胸元に迫り———