第三話『目覚め』
ストックが底をつきそう…
ゴトゴトと揺れる地面
常時ある振動
人間の怒号に近い叫び声
起きているようで眠っているような感覚
聞こえ、感じはすれども目が開かない
うるさいなぁ
意識を5分の1分程取り戻した僕は心の中で文句を言いながら体の上にかかる布団を…
ん?あれ?今、どういう状況だったっけ?
確か僕は森で訳の分からない連中に追いかけまわされてその後…?
そんな思考できたのはこの瞬間まで。
爆音
辺りに響き、耳に刺さり鼓膜を破らんとする轟音。
何事かと僕は飛び起き———
「ぃった!」
「うわっ!?」
ガン!というあまりにも痛々しい音を出して僕は天井に頭をぶつける。
分かるだろうか?あの二段ベッドの下段で寝て目覚ましがうるさく鳴り響き慌てて起きたら天井に頭を勢いよくぶつけるあの感覚を。
状況としては今まさにその状況なのである。
結構本気で痛い。
…あれ?ていうか今人の声が聞こえたような…?
「あなた大丈夫?」
目を開けると心配そうな目でこちらを見るまだ若い少女が座っている。
「っ~…大丈夫じゃないけどまあ大丈夫……ってあなたは誰?…それよりもここは一体どこ?」
「まぁまぁ落ち着いて。ほら、今ぶつけた所診てあげるからこっちに頭出しなさい」
「え?あ、ありがとうございます…」
痛みと不明で混乱する僕を落ち着かせ、少女は僕が今ぶつけた場所を診てくれる。
「エメンランシー。装甲列車メメントの衛生科所属」
「え?」
僕の頭のぶつけた所を診ながら少女は言う。
前半は多分この少女の名前だろうけど…装甲列車って一体どういうこと?
もしかして今僕装甲列車に乗ってるの?
「私の名前と所属。名前は長いから好きに呼んで」
「分かりました。じゃあ…エメンさんでいいですか?」
「いいわよ」
お互い喋ることが無くなって刹那の空白が生まれる。
少し気まずい空間。
その空間を破るように先ほどと同じような爆音が響く。
音が鼓膜に刺さり若干の痛みを感じるが、さすがに二回目なので先ほどのような驚き方はしない。
だけどこれは…
「あの、エメンさん、えっと…もしかして今僕が乗ってるのって装甲列車だったり…?」
「そうよ。それ以外に無いでしょ」
やっぱりそうだった。
うーん、うまく状況が呑み込めない。何で僕は今そんな物騒な物に乗ってるんだ?
それに森の中で変な連中に追いかけられた後の記憶が曖昧だし…一回試しに聞いてみようかな。
「あの、何で僕ここにいるんですかね?」
取り合えず聞いてみることにする。
やっぱり分からないことはとにかく人に聞いてみるのが一番だからね。
それにこの【代理人】に落とされてから誰とも話してなかったから色々喋りたいしね。
「…?あなた自分がどうなったのか覚えてないの?」
驚愕の表情と共に何故か困惑の言葉をいただく。
そんなこと言われてもホントに覚えてないんだけど…
僕はその言葉に肯定を示すように頷く。
「そっか…そっかぁ」
それを見たエメンさんは少し考えるように顔を上へとそらす。
え、そんな言いにくいことなの…?
「うーん…えっと、あなたがこの列車に撥ねられたのは覚えてる?」
?????
僕が?列車に??
……ああー…思い出してきた。
確か僕は変な奴らに追いかけまわされて、右腕刺されて、その後汽笛が聞こえた途端になんかいきなり離れてったからその反対方向に進むついでに線路を見つけて、何となく出てみたら跳ね飛ばされたんだっけ…
でも、だとしたらもっと右腕痛いと思うんだけど…
「あれ…?」
「どうかした?」
「あ、いや何でもないです」
「?」
僕は自分の右腕を見てみるが、特に何ともない。
たしかに右腕の袖の一部が切れて大穴が開いててそこに血の跡があるんだけど、今は傷が無いどころか刺されたとき確かにあった痛みすら感じない。
袖の生地に着いた血の量から推測するに結構な量が出てたはずだから何か跡らしい跡があるはずなんだけど…
「まあ、アナタも運が良かったわね」
「僕ですか?」
「そうに決まってるでしょ。かなり重量がある装甲列車にそれなりの速度で激突して、かなりの距離跳ね飛ばされた割にはほぼ無傷だったんだから。普通なら一番良くても文字通り体がバラバラになっててもおかしくないんだから」
体がバラバラに———
なるほど、確かによくよく考えてみればそれもそうだ。
僕は見たことないけど、普通の列車に跳ね飛ばされただけでも体がバラバラになることがあるんだから、きっとその言葉は真実なんだろう。
「それよりも、何でアナタあんなところでウロウロしてたの?あんな危険地帯に居たんだから迷子って訳じゃないでしょ?」
「え?」
言葉に詰まる。
ていうかやっぱりあの場所危険地帯だったのか。
どう考えても何もない無力な者をそんな場所に落として馬鹿笑いしていた【代理人】に再び怒りが燃え上がるが、一旦それは置いておいておくことにしよう。
さて、果たして最初から全部言ってもいいものか。
【代理人】を自称するカスに出会って、そいつに超高高度から落とされて、訳の分からない連中に追いかけまわされて、腕を刺されて、その後装甲列車に跳ね飛ばされた。
…自分でも信じられない出来事だ。もしこれを全部言ったとしたらさっき頭を勢いよくぶつけたときの後遺症かと思われるかもしれない。
そんなことを考えていると、不意に扉が数回ノックされ、扉が開けられる。
「どうだいエメン君、彼女は起きた……かい?」
そして入ってきた人———大きめの白衣を着て、何故か右目が眼帯で隠れている人物は僕の方を見て目を輝かせる。
うーん、なんか嫌な予感がする。
少し忙しくなったり書き溜めたりするので更新がちょっと止まるかも…