夢の真相は目覚めたあとで書き換えられる
運命は一冊の本のようなものだろう。
私という物語の中で繰り広げられる躊躇なき冒険の日記のようなものだ。
とはいっても、ごく普通の日常を書き綴っただけのつまらない人生にするつもりもない。
生まれてきたからには、やりたいことを目一杯やる! それが私のポリシーだ。
で……なんでこうなったんだっけ……?
午後のよく晴れた昼下がり、スマートフォンにメッセージが届く。
うーん……今日はこれからのんびりと買い物にでも出かけようと思ってた矢先だったのに……
断ることもできるし、見なかったことにして明日にでもお詫びの連絡を入れようか……いやいや、後々になって面倒なやり取りをするのも……
そう考えていると、
『ミヅキ? 見てる? 見てるでしょ、今さあんたア・タ・シのメッセージを無視しようとしたでしょ』
「そ、そんなことないよ」
て……なんで、私は目の前にいない相手にスマートフォンの画面越しに弁解してしまったのだろう。
ひょっとして見られてるんじゃないか……と、いちおう1LDKの部屋の中を見渡してみるが、もちろん私以外には誰もいない。
実家から飛び出して一人暮らしをしている私には、家族もいなければ、頼れる友達もそれほどいない。
つまり、孤独な女だ。
て……自分で言っていて悲しくなってくる……
仕方なく、メッセージを開いた私は、
『言い訳も反論もしないよ』
とだけ……返信した。
メッセージの送信者のヌシは、大学の金井先輩。
とある事情から仕事を手伝ったのをきっかけにたまにあってはご飯を食べに行く程度の間柄になっている。
『悪いんだけど、今回のお客様はミヅキちゃんをご指名なのヨ』
『誰? 私の知っている人?』
『そうね……』
今からさかのぼること一週間ほど前……
私は金井先輩の代わりに夜のバイトをしていた。
勘違いしないでほしい。相手をおだてられるほどのトーク力も私にはないし、酒のつぐような気立てもない。
私の仕事は……
「もう一度、彼氏さんと今後のことを考えたほうがいいよ」
薄暗い部屋の中、ベルベットの布に覆われたテーブルの上にはカードのスプレッドが広げられている。
……6番目の大アルカナ…恋人たち……
私の前には若い女性が一人。表情はやや困惑している。それもそのはずだ。
同棲している彼氏との今後の結婚についての相談だったが、
「大アルカナ 恋人たちのカードは選択する時期ではない暗示を示しているわ」
本当のところでいうと彼氏さんの方はまだ結婚するつもりもなく、今のままの生活でいたいたいうのが正直なところだろう。
理由なんて簡単。責任を追う立場になりたくないだけ……具体的にどんな責任かって? そんなのは決まっている。
結婚となれば、両家の両親との顔合わせだが、もともと彼氏さんは両親とは折り合いの悪く、仕事を口実に家を出たのだろう。
そこで知り合ったのが、私の目の前にいる女性だ。
「どうして、結婚を急いでるの?」
「………」
私は答えの知っている質問を投げかけるが、彼女は無言になる。
タロットカードから読み取れる彼女の気持ちは、複雑でいて実にシンプルなものだ。
「浮気ね」
言いづらそうしている彼女が口を開く前に私は言った。
「ミヅキ先生は何でもわかってしまうんですね」
「カードだよ」
「カード?」
タロット 恋人たちの図柄にはアダムとイブが描かれている。
アダムの後ろに一匹のヘビがいるを見てわかると思う。
そいつが曲者である。アダムの別れた奥さんで、別れたあともアダムを忘れられないまま後ろから見ている様子が描かれている。
つまり、ヘビのことを知っていて何ともできなかったアダムと同様に、イブもヘビもどちらも選びたい男心が隠されている。
「気にしないことね、好きなら好きのままでもいいし、執着なら捨ててしまいなさい。あなたにはあなたの人生があるんだからね」
私の仕事は占い師になる。
もっとも、今はである。金井先輩が休みの日だけ入っている代打のようなものだ。
本当いうと、一日中狭い部屋に閉じ込められて、薄暗いテーブルで占いをするのは性に合わない。
そもそも私は占い師になりたいわけではなく、占いができる人なだけなのだ。
っと……自己紹介はこれくらいにして、本題はこの先からだ。
そう……ちょうど、時計の針が11時を回った頃、終電もあるから店じまいにして帰ろうとしていたとき。