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明日


 気になる事を探り出せるか、無理か、いっそストレートにツッコむか…などと迷っていると程なくして廊下を歩いて来る足音に、先ずリッカ少女が気付いた。酒場(バー?)ウズラ亭の主、ママさんのご入店である。


「あら!こんな時間に。」


ウィノ少年を見た途端に声を上げたママさんは、次いで深々と頭を下げた。少年も礼を返して一通り挨拶が終わるとカウンター内に入ってすぐに働き始める。


「ありがとう、リッカ。後はやっておくから。

 ウィノはどうする?ご飯食べてく?

 ほとんどリッカの手造りよ、今日のは。」


「え……いえ、すぐに帰ります。」


 明らかに揺らいだ。ママさんも知ってるな。

 何?もう付き合ってんの?公認なの?

ナクタ少年の様子がおかしい事も含めて、もしかして三角関係ってやつなのか?とか考えていたが可能性が低くなってきた。だいたいナクタ少年はミズアドラスを出ないといけないのだからリッカ少女が好きなのだとしたら、ただ切ないだけの物語である。逆もまた然り。三人の背景を考えると、そう単純な話でもない可能性も高い。…なんて、またつまらぬ詮索に時間を喰ってしまった。


「そうそう、ナクタ、サイン頼まれてる。

 アンタが言った事と同じか確認して、

 あと契約内容は最後までちゃんと見てよ?」


ママさんが少し声を張りあげて暇そうにしているナクタ少年に声をかけた。カウンターテーブルに一枚の紙…書類を置いて、トントンと指で示す。少年は椅子から立ち上がり、机に置いた肩掛け鞄を小脇に抱えてこちらに近付いた。

 本当に離さないんだな、荷物…。

 ところで部屋に置きっぱなしの、

 あの大きなリュックはどうするつもり?

忘れているわけではないはず。私に持たせるつもりなのか……有り得る。昨日のナクタ少年ならね。


「あら、ウィノ。さすが、気が利くわ。」


ウィノ少年が万年筆?を差し出している。それを受け取ると、立ったままテーブルの上の書類をザッと確認してサインを終えた。


「連絡って、何でもいいの?」


「指定してないなら、いいんじゃない?

 そういうのはサインする前に聞いてよ。

 もう書いちゃったんでしょう?」


「いいよ。書いてないなら、いいんでしょ?」


「アンタねぇ…。」


なんとなく解ってたけどナクタ少年は時に大雑把だ。あまり興味のないことにはとことん無関心なようだった。自分の事ですら。喰い付く時は時間も場所も相手も構わず喰い付くのに。

今も万年筆?をじろじろ見て観察している。気が済むとウィノ少年に返して軽く溜息をついた。


「終わった。」


「ああ、もう真っ暗だ。」


「ランタン借りると返しに来ないとな…。」


「遅くなったからウチのが来てる。外。」


 え?そうなの?

外の雑踏の中にファルー家の人がいるのだろうか。暗くてよく見えないが、灯りを持った人も何人かいるようだ。


「あっ…と、あの話。ユイマさん、

 ライトニングさんと話してて…。

 腕輪造るって話聞いてますか?」


 あ、すっかり忘れてた。

「あ〜聞いてる。本当にいいの?」


「その、あれからもう一回考えたんですけど、

 くっ付けておくのが髪の毛でも良いなら、

 髪留めか髪飾りの方が負担少ないですよね?

 長時間皮膚に触れるの良くないから。」


その通りだ。魔石を紐で括ろうとすると強く結ばなくてはならない。そのせいで脚に当たって既にかなり痛いのだ。

 ライトニングさん、ナクタ少年には、

 何でも話すな…。本当に大丈夫なのかな。

「それなら、そっちでお願い。

 造りやすい方で。両方使えるから。」


「わかりました。」


「それと、あの、悪いんだけど、

 地図もないからこの辺り全然わからなくて。

 明日また迎えに来てもらうか……、

 これからついていってもいいかな?」


「これから?なんでですか?」


「ファルー家の場所、わからないから。」


少年二人が顔を見合わせる。先に口を開いたのはウィノ少年だった。


「明日迎えに来ます。」


「俺だけでいいだろ。」


「俺も渡すものは渡さないと。」


「そんなの俺が一緒に持ってくよ。

 それより用事終わったんだから、

 魔法見せてもらうんじゃねぇの?」


「大魔女様に!?そんな非常識なこと、

 頼める…ング、ぞんなわけ無い。」


そうだった。そんな話してたな。

「別にいいけど…、えと、

 魔法は使えるんじゃないんですか?」


「…え?」


「召喚魔術だけなんですよ。ウィノは。

 あと緊急時の転移。俺もだけど、

 好きでもそれ以上教えて貰えないって。」


ナクタ少年から教えてくれた。


「お前か……。…せっかくの機会ですが、

 領主家の客人に失礼があったと知れたら、

 家の者に怒られます。ん゙…とんでもない。」


「…そんなにさ、大魔女様って特別なの?」


「!?何だと思ってるの!?それが確実なら…、」


「あ、いや、いいよ。(私も良く解ってないし)

 それよりナクタくん、その、荷物なんだけど、

 合わせると凄い量になるよ?

 まだ部屋に大きいのが残ってるし。」

私の言葉に愕然とするナクタ少年。まさか本当に忘れてたのか。途端に慌てた様子でママさんに声をかけた。


「ごめん。売り物片付けて無かった。」


「部屋にあるの?捌いといていい?」


「それはいいけど、水筒洗ってない。」


急に襲い来る既視感。あるある。私もよくやるやつ。優しいママさんは"ハイハイ"と代行を請け負ってくれている。

 …まあ忘れるのも無理ないか。

 昨日からいろいろあったからなぁ。

 私もナクタ少年も…。

傍らで見ていたリッカ少女が恐る恐る少年に話しかけた。


「ナクタ、もしかして売り上げ……、

 昨日から入れっぱなしじゃない?」


「!やば、現金!!」


「待ってるから早く行って来いよ。」


ウィノ少年は真面目にそう促すと、笑いながら近くの椅子に跨った。

あまりお別れっぽくしないのが彼等の流儀なのだろうか。便利な転移魔法なんかがある世界なのだから別れなんてこんなものなのかもしれない。まだ明日もあるしね。

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