誤解
歴史の見解というのは研究者達による様々な説があり、その考えが統一されるものばかりではないとか。
竜と大魔女による変化なんてものは竜の王様の我儘を叶える為の作業にしか思えないというのは、まだ小娘である私個人の考えでしかない。結局、この世界の住人には竜の王様がラスボスということで良いのかと中ボスである竜に問い詰めても、どうせラスボスの意思に沿ったことしか言わないのだろうし、実際住人達はラスボスの存在に気付くどころか中ボスにも実力的に手も足も出ないのが現状である、という理解で宜しいか?みたいな事が訊きたくても、角が立つのも嫌だし何と言ったら良いものか纏めることも上手くいかない。それが私の現実であって、やはりここでも何も出来ないのだった。
竜は問いただす。いや、問いただしてくれる。
「正解が欲しいということですか?」
「間違えてるなら言ってほしい。」
「事実を知るものが少ない事は、
あまり私が広めるべきではないと考えます。」
「……私が大魔女でも?」
「私の友人は自由です。ですが、同時に、
この世界の人々の一人として存在しています。」
「……解った。でも一個だけハッキリさせていい?
私が選び取ったものに受け継がれる、
イドさんにそう言ってたよね?」
「その通りです。」
「どういう意味?」
「私の大切な友人。率直に言いますよ?
その意味をすら、貴方は選び取るのです。」
……………………………………。
…………………!!
ああ、そうか。選ぶって、そういうことか…。
自分の考えを自分で肯定することは、
出来るんだ。
……同意なんかいらないんだ。……そうか、
選択肢は自分で求める事が出来るんだ。
本当はいくつも考えて、選ぶことも…。
そういう思いも、叶えられるんだ……。
大した意味がないとか、
私みたいな身の上が望む事ではないとか……、
否定するのは当たり前じゃないんだ……。
ただただ、ぽかんとしている私を見る竜の瞳は、何だか心配そうな光を宿していて優しい。
……あ、イカンイカン。
何とかしっかりしなくちゃと現実に帰ると、もう何の話だったかなんてどうでも良くなってしまった。
大事なことだ。
私には、とても大事な、世界の真相だ。
ここには私の精神を打ち据えるものは何も無い。
囲い込み惨めに縊り殺そうとする甘い影も追ってはこない。
追いかけてまで嬲ろうとする恐怖はもう遠いのだ。
…………イカンイカン。ちゃんと考えろ。
確認しないといけないことがあったはず。
え〜〜〜っとね…………あ、そうそう。
「………解った。それはよく解ったけど……、
じゃあさ、もしもライトニングさんが、
何かやって歴史を変えちゃって、
帰還しないといけないって事になったら、
私はどうなるの?」
「そんな事は有り得ません。」
えぇ!?まさかの回答。
「わかんないじゃん。ライトニングさんだって、
うっかりやらかすかもしれないし、
還ることになるかもしれないでしょ。」
「…怒っているのですか?」
「や…、怒ってはいないけど、怒られるよ。
そうなったら私一人でどうすんの。
元の世界に帰れないんですけど。」
「ああ、それは大丈夫です。
私の存在は貴方の楔に留められている。
帰還の時には私と共に元に戻ります。」
「ユイマは?」
「魔石はこの世界のものです。
自らの魔法で眠った訳ではありませんから、
私の消失に気付くと同時に魔法が解けます。
魂の近くに肉体があれば、
迷うことなく還っていくはずです。」
成程。魔石は肌身離さず持っていないと。何があるか解らないからな。
「魔法陣があったとこまで連れていってから、
身体返してあげないとね…。」
「魔女は他人の事まで考えているのですね。」
「え?ユイマのこと?
これだけ身体使わせて貰っておいて、
他人て、それはないでしょ。本体じゃん。」
「けれどユイマとは話した事もないでしょう。」
「あ……そう言われれば、そうだね。」
「話したことが無くても、好きなのですね。」
「え?そりゃ、別に嫌いではないけど…。
どうしてそうなるの?
ライトニングさんの好き嫌いの考え方、
ちょっとおかしくない?」
「……共有するものが意識に働きかける、
ということでしょうか。」
意味不明なことを独りごちて竜はジッとこちらの様子を伺っている。何が言いたいんだか、したいんだか訳が分からないままで、ひたすら気味が悪い。
私はそっとベッドを離れて丸椅子に腰掛けた。よくわからんけど意味不明過ぎるから、もう放置しようと思う。
ナクタ少年まだかなぁ……。
距離があるとは言っていたけど、それにしても遅くないか?用意に手間取っているのだろうか。
ドアの向こうでミシミシと音がするなと思ったら、咳払いが聞こえた。ダミ声と気配のデカさでイド氏だと解った。続いてノックをすると、何故か発声練習をしている。特に何も変わらないままの声だったが、入室の許可を求めてきた。
「いいかな?入るよ。」
「どうぞ。」
言ったものの部屋に入れるのか微妙だ。スペースもないし、まず頭を打つと思う。
「………あ〜〜〜〜。
そうだね。狭い。ここで充分だ。
いや、さっき憲兵が来ただろう?
心配でね。偉大な竜がうまくやるとは、
思ったけどね。それにさ、俺はまだ、
改めてお願いするべきことを伝えてない。」
どうやら仕事用じゃない方のイド氏だ。
「どうしたんですか?」
「大魔女が正式に認められるなんてことは、
何処か辺境の国にでも行かないと、
まず無理だよ。それでも危ない。
例外はフーリゼだがね。俺は遠くまでは、
ほら、情報がないだろう?何も言えない訳さ。
とにかくだな、南北の大国は避けなさい。
これはね、大事な忠告だ。いいね?
そして、ナクタはここの言葉以外話せない。
……気を付けて見てやってくれよ。」
「あ、……はい。」
「あまりね、偉大な竜の前では話しにくいが、
……本当に、公認される事を目指すのかい?」
「え?」
「あ…え〜〜〜と、うん。俺はね、つまり、
なんだかんだ言ってもね…まあ大丈夫だと、
…………ミリシアなら騙されてくれるとね、
……そういうつもりだったということだ。
………あの子も本気で信じ込んではいないさ。
……………いやね、誤解しないでほしいんだ。
何と言っても、ナクタはリィドの子だ。
俺もミリシアも大事に思っているよ。
……それとなく伝えておいてくれないか。」
「……わかりました。」
ああ、まあ、商売に使ってたといえば、そうだもんね。ちょっとズルい気がするけど、少年が慕う人達ならば仕方ない。家庭の金銭事情とかもあったのかもしれないから。お金の事はなぁ……。
「………もう会うことはないだろうが、
まあ、せいぜい達者でやってくれよ。」
捨て台詞のような言葉を残してイド氏はドアを閉めて去って行こうとする。
「故郷に帰るのは、本当に諦めるんですか?」
閉まりそうなドアが止まった。
「……………あれはね、…………まあ、誰かにね、
面倒なことは一切押し付けてやって、
死に場所くらいは自分で決めたかった。
そういうことだよ。……それがさ、これだよ。
おかげ様で生かされたからね。……いや全く。
……安々と引退するわけにもいかなくなった。」
じゃあね。と呟いてドアを完全に閉めると、またクックッと笑いながら階段を降りて行ったようだった。




