動物
ぽつんと背を向けて動こうとしないイド氏を置いて、竜に転移と開扉をやってもらい、何とか地上に出て来れた。木々と葉っぱの香りがする澄んだ空気を吸い込むと、もうウズラ亭の窓の外は昼過ぎの陽気で明るい空気に満たされていた。
…お腹減った……。
空腹を抱えて部屋に戻るも、食べ物など何も持っていない。気を紛らわせる事を考えようとして、やっと自分に余裕が出来た事に気が付いた。
とりあえず、家に帰ったナクタ少年が戻って来るのを待たなければならない。昨日からの動揺で頭も身体もいっぱいいっぱいだったから、色々と後回しにしてしまった。私もちゃんと話をしなくては。
ベッドの上で風呂敷を解くと、雷の竜は丸いままの姿で私を見た。落ち着いてみると目の前にあるものの輪郭が細かに判るようになってくる。
時間があると思うと気持ちも楽で、途端に竜が不思議なほど気安い存在に思えてきた。怖いと感じていた竜の目も魔石のおかげか何でもない。むしろよく見れば琥珀のように艷やかで暖かく、綺麗だった。
「ライトニングさんは人間じゃないよね。」
「見ての通りです。」
「動物なら好きになれるし仲良くなれるのに。
人間だと急に駄目って、おかしくない?
人格があるなら同じはずだよね?」
「貴方のことですか?」
「うん。……見た目のコンプレックスかなぁ。
人間だと上に見えちゃうんだよね。
皆ちゃんとしてるよな、って、嫌になる。
私はまるっきり飼育された動物だから…。」
「ユイマではなく、貴方がですか?」
「そういう事だと思う。自分の考え方もイヤ。
指示通りの言葉遣いも使いたくない。
ムカつくし。………あ〜あ。
認めたくないんだけど、でもそれが私。
………もう、そうなっちゃってるんだ…。」
「貴方がそう感じているのは本当でしょうね。」
「あ、ごめん。一人で喋りすぎた。
前に、能力について、
ライトニングさんが私に言ってたことって、
そういう意味なのかと思って。」
「私は分析結果しか告げられません。
意味を識るほどに近くは在れないのです。」
「あ〜そっか。いいよ。ごめん。
どうでもいいから、こんなの。忘れて。」
「……。魔女はどうしても私が嫌いですか?」
「え?嫌いだったら、こんな事話さないよ。」
「好かれているのですか?私は。」
「そりゃそうだよ。こんなの話せる人いないし。
あ、確かに、最初は違ったけどね…。
でも今は信じて頼ってるでしょ?」
そういうのって私、いい加減かもしれないな。
自分でもよく解んないからなぁ…。
「…魔石を外して貰っても良いですか?」
「なんでそこまで疑うの!?
嫌だよ。また結び直すの面倒くさい。」
「私は貴方のことが好きですよ。」
唐突。何考えてんの。
「何それ?どうかした?」
「自分が言われると解らないのですか?
私に言うのと同じはずでしょう。」
「同じわけないじゃん。
私とライトニングさんが。」
「…………。」
「違うでしょ?」
「……そうですね。」
…?……なんか変だった?
日頃から変な子だのおかしいだのと周りに言われるから気にしてしまう。悪目立ちするのは避けたいのだけど、なかなか上手くいかないもんだな。
まあ、異世界だし、気にしなくていっか。
諦めるしかないのかな。小さい頃から陥るこの状況は。何かが上手く出来ずに変な子と言われてしまう。そうすると言い訳しないといられない。それがまた変だと言われる。堂々巡りにしかならない。自分でも何がどうして変なのかなんて、解らないのだから。説明してるつもりなんだけど。
……でも相手にはそうは思えないんだ…。
…間違えてるのかな?……言われてみれば、
自分はこういう人間です、って押しつけてる、
それだけのことか。好きならしないこと?
…なんかまたよくわかんなくなってきたぞ?
とにかく竜から見ても変なのかな、私は。
遠巻きにされる事にも慣れている。私の場合は、ぼっちになるのは私自身に理由がある。
「ごめんごめん。本題は別にあるから。
グラ家で何話してたのか、覚えてる?」
「誰とですか?」
「領主。火事の前に何があったの?」
「特に何もありません。
領主は自身の主義と主張を述べていました。」
「ラダさんとルビさんはどうしてたの?」
「静かに話を聞いていました。
火の手が上がったと聞いて一斉に、
二人で廊下に出て何処かに行きました。」
「逃げたのかな?」
「さぁ。どうでしょう。
私もすぐに移動しましたから。」
なんか怪しいな。やっぱりラダさんとルビさんには何かがある。ただ唆されてテロリストを引き入れたなんて信じられない。むしろ二人がガチのテロリストだった方が、まだ信じられる。
「ラダさんが話してたこと、解った?」
「大筋では整合しているはずです。
大きな差異は無かったと記憶しています。」
?
「あ、あれか。粗筋だ。……つまり、
ラダさんの話はほぼ事実だったってこと?」
「私には理解は出来ません。
出来ることは検証と検分だけです。」
「………なんかそれも面白いポジションだね。」
「そうですか。…ありがとう。」
竜の声が穏やかに、はにかんで聞こえる。
妄想かもしれないけれど、滅多に見せない隙を見た気分。ニヤリ。
「あのさ、頭撫でてみてもいい?」
「どうぞ。」
竜の頭には初めて手を触れた。ゆっくり撫でると、冷たくて滑らかな鱗や少しザラザラする皮膚の感触が面白かった。黙ってされるがままになってくれたから、好意に甘えて待ち時間は竜の尻尾に手を置いたまま昼寝をした。このまま死ぬのかなと思うくらいに安らかに眠れた。




