真相
イド氏がこちらに顔を向けて見ているようだ。言いたいことでもあるんだろうか。ちょっと遠くて暗いから目線はわからないけれど、近づいたら多分逃げるのだろうから距離は縮めるわけにはいかない。
何がしたかったのか解らないまま、すぐに竜を正面に向き直ると、興味もなければ変哲も無いといった態度に戻った。
「……………知ることが出来る、と言ったな。
心を読むということなのか、それは。」
「似ています。」
「…………俺の知っていることしか、
アンタも知ることが出来ないわけだな。
偉大な竜よ。…なら、真相なぞ出て来ない。」
「我々は領主の息子から様々な話を聞いています。
領主自身にも会いましたし、
対話の場を設けて雑談もしました。」
「………………………本当か?」
吐く息と同時に出た声は掠れていた。
少し俯いて床を見たまま動かず立ちすくんでいる。その傾いた頭の中で疾風のように何かが巡っているようだった。
緩やかな沈黙の後で顔を上げ、肩で大きく息をすると、ドアの向こうから部屋の中に入って来て石の床に膝をついた。
「教えてくれ。……何があったんだ?」
「どこの話しをしたらよいのです?」
「まずは、狼のガーディードが、
呪い殺された事件だ。」
「ええ。水の竜の結界が破られた頃。
その後ですね。二十年程前。
簡単に言うと、ミロス側の手引きをした、
その実行犯だったからです。」
「ミロス?………まさか、ミロス帝国か?
何処かの組織や団体ではなく、あの大国の…?」
「そうですね。元々そちらの人間だったと、
その計画のためにどうやらこの地に、
送り込まれて来たようですよ。」
「え!?………イドさん、ミズアドラスには、
師匠に連れて来て貰ったって……。
その時、一緒に来てたんですか?」
私の聞いた話と合わせると突然スパイ映画のような世界観になってしまうのだが…。
「…………来たのは一緒だよ。理由は忘れたが。
いや、すぐに、ここで落ち着けと言われた。
……同じ種族がいるいい所だと……。」
どうやら、とんでもない事がイド氏の過去をかすめているようだ。本人も、もう相手が竜だろうが私だろうが構っていない。
「…………………だったら、あれは………、
俺ではなく、組織……いや、種族も………。
ミロスの協力者を威嚇する為の見せしめか…。
…………それじゃ、病気としたのは………
…………公の事件にするのを避けるため……?
まさかそんな理由でしかないのか?
あれだけ影響が出たのに!?
………手を拱いて何人が死んだんだ……。」
かなり堪えているようだ。実際どれほどの人が亡くなったんだろう…。
「結界さえどうにかしてしまえば良かった。
吸血族の英傑は知られない事もあります。
後は同志と呼応して動いたのでしょうね。
武装集団を中に入れて道を開き、
聖殿の方に侵入した人物が、その時に、
魔石を奪って行ったそうです。
ミロスの狙いは魔石だけだったようです。」
「……魔石って、盗まれてたの?
世界に公表されてる事とは大分違う…。」
外国人のユイマもツッコまざるを得ない。
「そうでしょうね。気付いてはいるようですが、
まさか大国の侵入を許したとは言えません。」
まあ、そうだろうね。
ミロスも戦争したいわけじゃないんだな。
なんで魔石を盗んだのかは知らないけど。
「しかし、そうなると私は納得できません。」
「何が?」
ライトニングさんが訝しむなんて、レアだな。
「水の竜の結界が吸血族に破られる…。
そんなことは不可能です。」
「え?だって、
ライトニングさんが言ったんじゃん。」
「領主家の者達は共通してそう考えています。
ですが不可能です。上位にあるはずがない。
魔法に詳しい者なら否定出来ることです。」
「じゃあなんでそう考えなきゃいけないの?
パロマさん……は、いないかその頃は。
でも変だって。領主さんは勉強家らしいし。
なんだかんだで聖地は魔術…ていうか、
お呪いが盛んなわけだし、聖職者もいるし。
詳しい人がいないなんてことある?」
「……可能性を言うなら、ですが……。」
「何?」
「水の竜自身が、彼らに対して、
そのように説明したのかもしれません。」
「……!…でも、なんで?」
「私も聞いていない事です。
知りたければ、また暫く眠らなければ。」
チラリとイド氏を見ると、床に座り込んでいる。
座り込むというか体育座りなんだけど、ログラントでは呼び名もイメージも違うものなんだろう。とにかくあまり声を掛けられる感じではなくて、そのまま放置することしか出来なかった。




